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「そりゃあいつらだしね。
あ、一つ忠告だけど、帽子屋から何かを勧められても食べたり飲んだりしちゃいけないよ」
「え?」
「言ったからね? 帽子屋からは貰っちゃダメ!」
そう言ってウッドフェンスの出入り口を開いた。ピーターの横顔はその瞬間に、どことなく嫌そうに歪んでしまったが、申し訳ないけれど杏里に取ってはとても心躍る出来事になるだろう。いや、なるに決まっている。
音楽がさらに近くに聞こえてくるそれに、ひたすら胸が躍る感覚があって思わずピーターにピッタリとくっついて庭に入る。
庭の中央には長い机二つにそれぞれ白い布がかぶせられている。
その上にはいくつもの並んでいるティーポットにいくつもの連なっているティーカップ。重ねられたソーサーは不安定に揺れているのに倒れる気配はなくてなんだかサーカスの曲芸を見せられているようで思わず目が輝いてしまう。
本当に、物語の世界の中に入ってきたような感覚が胸を支配する。先ほどのピーターの忠告なんて心知れずと言ったようなもので彼女は机に手をついた。
「おやおやおやァ〜〜〜〜?????
誰??ダレ、だれ。だれだれだれ……
あんたぁ、だぁれなんだあぁい?」
キャハハキャハハハハ、と甲高いような、少し耳をつん裂くような笑い声をあげて近づいてきた男に思わず肩を跳ねさせた。
勢いよくその声がした方に目を向ければ瞳孔が開ききった黒が目立つ、微かに桃色を見せる瞳。いや、それ以上に目立っている頭から生えている長い耳が特徴的な、白いカッターシャツに異様に大きな蝶ネクタイをつけた笑顔がどことなく不気味な男が積み重ねられたソーサーの間から顔を覗かせていた。
揺れていたソーサーの塔は彼の登場にバランスを崩してしまいそのまま割れる乾いた音を鳴り響かせて地面に寝てしまった。
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