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自転車で走って十五分。
市立のコミュニティーセンターの中に併設されているこの街ではとても大きく広い図書館。土日でも人が少なく感じるのはやはり図書館を利用する人がそもそも少数派だということが要因となっているだろう。まぁ最近ではネットの普及がすごくて、ネットで読んだりする人が増えているという時代のせいでもあろうに。
自分だって自分の携帯があればそうしていたし、一日中家の中でテレビを見たり友達と連絡をとったりして過ごしていたが、生憎杏里の家には独自な規則があって、携帯は高校生になってから持つことになるのだ。姉もそうだったし、杏里もそう。
弟は母の携帯を使わせてもらっているようだが、そのあたりはどうでもいい。
コミュニティセンターの屋根のついた駐輪場に自転車を置いて鍵を抜く。この間ゲームセンターで鍵を抜かずに置いていたらものの十数分で自転車を盗まれたことは今でも怨みがましく想っている。コミュニティーセンターに入ってすぐ右側にある図書館への入り口をくぐると独特な香と心地良い冷気に太陽で熱された体に爽やかな清涼感が感じられて、思わず息を漏らした。
ちらりと入り口すぐの受付に目を向ければ受付カウンターで職員の人がそれぞれに働いていたり借りに来た人の対応をしていたりするのが見える。その中にものんびりとしている人がいるのも見えるが、それを横目に杏里は児童向けのコーナーへと足を向けた。
自分より少し低めの本棚に並んだこども向けの本を見てから杏里は並べられた本の羅列を眺めた。
「何読もうかな……」
ふぅと息を漏らして本の羅列を眺めていると横からヌッと白い手が伸びてきた。驚いて振り返ればそこには少年が立っていた。
自分より少し背の低いくらいの、然程年齢差はなさそうな年下くらいの少年。だが、どこか大人びた雰囲気を見せるその子はこちらを見下ろすと不気味なほど綺麗な微笑みを浮かべた。
日本人と同じ黒い髪をしているのに、日本人とは思えない色素の薄い肌と昼間だと言うのに不気味に輝くまるで満月を思わせるような黄色い瞳が彼という人間が日本人でないことを物語っていた。
「ごめんね。驚かせちゃった?」
「あ……いや、別に……」
彼から漏れ出た声はまだ変声期を迎えていない少年らしい少し高めの声で。ふと彼の抱えていた数冊の本に目を向けてしまった。
「これ、読みたいの?」
「えっと、学校の宿題で、童話を」
「あぁ……不思議の国のアリスとか、読みたいんだ」
くすくすと微笑みを浮かべる彼は歳が近そうと言っても思わず綺麗だと思ってしまうほど美少年で思わずドキ、と胸が鳴ってしまった。
「他にも向こうに置いてあるから一緒に選んであげようか?」
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