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「うん。あ、でも眠りネズミ……あー……ヤマネかな? あいつは君より年下の子どもだよ。
いっつも寝てるから会話が出来る事自体が奇跡って感じなんだけど、今日はどうかなぁ」
起きてたらいいんだけど。と言いながら三月うさぎ進んでいった方向とは逆側の机の方を進んで行く。途中で喋り声が聞こえるがピーターは気にする様子もなくそのまま足を進めていくのであえて気にしないことにした。きっとどこかで喋る花が言葉を紡いでいるだけなのだろう。
そう思っていれば家の近くの机に椅子が並べられているのが見えてそこには少しぼろぼろなシルクハットに、薄汚れた。でもどことなく小綺麗さを見せるスーツを身につけた男がそこに座って紅茶を優雅に飲んでいた。
「マッドハッター。おはよう」
「嗚呼。御機嫌様、少年。今朝は随分御機嫌な様だ」
その話し方に、違和感を感じた。何とも言い知れない不思議な違和感に、思わず首を傾げた。
「そういえば三月うさぎが奇声上げながら家に向かって行ったけど」
「視た。鳴呼、勿論。私が知ら無い訳が無い」
「うざぁ……ヤマネは?」
ケラケラと笑いながら帽子屋の座っている立派な椅子の肘掛けに腰を下ろすピーターに帽子屋はにこりと紳士的な笑みを貼り付けたまま「睡眠中故に起こすな」と隣の机に並んでいる椅子の一つを指差した。それを覗き込むように視線を向ければ柔らかいふわふわとした雰囲気の髪をした可愛らしいそばかすのある少年がそこで心地良さそうに眠っている。
その服装もどことなく可愛らしいパジャマのようでナイトキャップが肘掛けにかけられているのを見て本当に寝るのが好きな子なんだと思った。役だからなのか、それとも本来の彼がそうなのかはわからないけれどなんだか可愛らしく見えてしまう。
「処で、彼女は?」
思わず少年に見入っていたところでその言葉にハッとして帽子屋の方を見れば彼はモノクルをつけてこちらを見ていた。
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