『A Mad Tea – Party』

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 本当に、こう見るとどこかの本から飛び出してきた貴族の様に見える男で、もはや彼女の記憶からはピーターの忠告は吹き飛んでいた。 「ウェンディ役のお姉さん。  今日は記念日だから勝手にモノをあげないでね」 「笑止千万。私は其の様に不躾な男では無い」 「そうかな。帽子屋だからね、信用はできないじゃないか」  ま、君の勝手だけれども、と言って帽子屋が飲んでいた紅茶を奪うとそれを飲み干してしまうピーターに帽子屋はそれが愉快だったのかゲラゲラゲラと笑い出してしまう。まるで何かがツボに入ってしまったかのような上品とは程遠い笑い方に思わず今まで彼に勝手に抱いていた紳士像が崩れ落ちてしまい引き気味に彼女は足を後ろに引き摺ってしまった。 「笑止千万っていう割に、爆笑かますじゃん」  ツボに入って戻ってこない帽子屋のシルクハットを取り上げるとそのまま被ってしまうピーターは悪戯っぽく舌を出して笑っている。どことなく楽しそうなピーターを見ていると勢いよく家の扉が開け放たれる、壊れてしまうのではと言わんばかりの激しい音に肩を思わず跳ねさせた。  音のした方を見れば三月うさぎが暗い表情で飴玉が大量に入った瓶をしっかりと抱きしめて扉の前に立っていた。  先ほどとは打って変わって不気味なまでに静かで。とても暗い様子に違和感を覚えつつも声を掛けるなんて勇気はなくただ見守っていれば、彼は猫背のまま歩いて自分たちとは離れた位置にある椅子に腰を下ろした。 「おや、ティーパーティは終わり?」 「否、其れは少年等で有って私達では無い。  三月兎は少々疲労して居る様だ。飴玉を喰めば治る」  彼れは放置する。と言ってティーカップにまた紅茶を淹れ直し黒い四角い何かを挿れる帽子屋の言葉を聞きながらピーターを見た。彼女はこちらに視線をやるとそのままチラリと空いているソファに視線を向けるので、座ってもいいのか。と思い腰をそこに落ち着けさせた。
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