『A Mad Tea – Party』

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 本当になんでこんなに適当なんだろうかと呆れた視線を帽子屋に向ければ彼はこちらの視線に気がついたのか彼女を見るとにっこりと貼り付けたような微笑みを浮かべた。  何を考えているのかわからないその男から視線を外しピーターを見れば、頭をいまだに瓶に叩きつけている三月うさぎを見ながら宙に浮かんだ。  何をするのかと思えば彼はそのまま三月うさぎの方へと進み、机に降り立った。  ガラス瓶とは思えぬ強度を誇った瓶に頭を叩きつけ、額から血を流す三月うさぎはピーターに気がつくと動きをピタリと止めて彼女を見上げた。それはまるで神様に祈るような、神様を見つけたかのような穏やかな表情で、そのまま瓶を彼女に掲げた。  呆れたようにため息を漏らすとピーターは錠に刺さったままの鍵を回して瓶の蓋を簡単に開けてしまった。本当に呆れた様子で振り返るとそのまままた宙に浮かんで、空中に浮いていた椅子に腰を下ろしてしまった。 「バカの相手ってするだけで疲れるよねぇ」  本当に嫌になっちゃう。と言いながら片手を出した彼女を見上げていればまるで吸い込まれるように彼女の手にグラスとジュースの入った瓶が飛んできた。したからではピーターの表情は見えないが、本当に疲れたような声が聞こえるので杏里は取り敢えず耳から手を離して三月うさぎの方を見た。  彼は無感情のままに飴玉を一粒一粒手に取って吟味しながら、良さげなものを口に放り込んで幸せそうな蕩けたような恍惚げな笑みを浮かべてその飴玉を頬張っている。 「本当にあの飴って大丈夫なの?」 「大丈夫って?」 「だって、なんか変じゃない……」  三月うさぎが心配なわけではない。あれと同じものを食べた自分の身が心配なのだ。  杏里は眉尻を下げながらそんなことをヤマネに聞いてみた。ヤマネは頭についた丸い耳を小さく動かすと少し考えてからどこかつまらなさそうな表情を浮かべながら肩を竦め、口を開いた。 「薬と一緒さ。適度な量を用法に則って食べれば問題ないさ。まぁ、あいつは基本的に好き勝手に食べるから頭可笑しいんだけど、それにウェンディみたいな外から来る人は一粒食べればここにいる間は自由に出来るしね」  だから平気だよ、と言って彼は机に置いていたジャムをケーキにかけた。それをみて杏里は思わず顔を顰めてしまった。だって、甘いものの上にさらに甘いものをかけるなんて、普通ならば考えつかないしそもそもやろうなんて考えない。パンならまだしも、彼がジャムをかけたのは甘ったるい生クリームのついたショートケーキなのだ。
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