『A Mad Tea – Party』

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 不安で泣きそうな子どもを優しく慰める母、というよりも泣き崩れた恋人を優しく受け入れる人、と言った雰囲気に見ていて思わずこちらが気恥ずかしくなる。 「どうしたって言うのさ。もしかして…………ふふ、お前はやっぱりかわいいなぁ」  自己完結したようにティンクの言葉を聞かないまま足をぱたぱたとさせ幸せそうに微睡むような微笑みを浮かべているピーターにティンクは何も言わずにそのまま彼女の腰にその太くて立派な腕を絡み付かせた。  その姿はまるで恋人のように見えなくもない。が、やはり異質的である。彼女らの姿に違和感、というか疑惑を感じながらなんとなく二人を見つめて近づこうと立ち上がれば、誰かに腕を掴まれた。勢いのまま椅子に戻され驚いて腕を掴んだ人物の方を見ればそこには家の中に戻ったはずのヤマネがいて呆れ返った表情でこちらを見下ろしていた。  彼、こんなに背が高かったっけなんて思ったところでヤマネは呆れたようにため息を漏らした。 「音が止んで気になって戻ってきたけど……今あの二人に声をかけたら確実に嫉妬で狂ってるティンクに撃ち殺されるからやめときなよ」 「え」 「僕はここの音楽がないと眠れないから即刻立ち退いて欲しいんだけど……」  無理そうだけどね、なんて諦めた様子で言い肩を竦める彼の言葉に杏里も少し苦笑いを浮かべつつ、まるで恋人のようにも見えなくもない二人に視線を戻してから帽子屋と三月うさぎを見た。  二人はやはり特に興味はないような感じでそれぞれに自分の時間を過ごしているようで、隣にまた腰を落ち着かせたヤマネに杏里は顔を向けた。 「やっぱり音楽だったんだ」 「え?」
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