『A Mad Tea – Party』

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 漏れ出た言葉にヤマネがその瞳をぱちくりとさせて彼女を凝視した。 「食器とかが浮いたり音を立ててるの」 「騒音に聞こえた?」 「ううん。好き勝手に鳴ってるように聞こえて、でもちゃんとリズム取ってるの。すごい楽しそうだと思ったんだ」  ここに来た時の夢の中に入ったかのような浮遊感のある、いや心躍るというべきなのだろうかそんな楽しい感覚を思い出しながら笑みをこぼしてしまった。  そんな杏里のどこか楽しそうな表情と浮き足立つような声を聞いてヤマネは少し意外そうな表情を浮かべたが、すぐに視線を逸らしてしまう。何を考えているのか、だがまたすぐにこちらに視線を戻してから深く長くため息を漏らしながらカップを手渡された。  一体何か、と思って受け取ってしまったカップをじっと見ていればどこからともなくやってきたというか浮かんで来たティーポットが紅茶をそれに注いでくれた。それがピーターが注いでくれたあのフルーツティだということは匂いですぐに分かったから遠慮なく口をつければやはり口の中に広がる柔らかな甘みに笑みが溢れた。 「美味しい?」 「うん」  思わず幸せを感じるような感覚に笑みをこぼし頷けばヤマネは少し考え込むような表情を向けて「ふぅん」と適当な声を漏らした。  何かあったのか、と思い彼を見ればポットの中を見つめてから自分のカップにも紅茶を注いでいる。 「じゃあ、君がピーターと出て行く前にティーバッグ用意しておいてあげるよ」 「え。いいの?」  聞けばヤマネは特に関心がある様子もなく「いいよ」とはっきり言い捨ててから紅茶を飲み始めた。ピーターが彼らからは何も受け取るなと言っていたからこそ彼の言葉に「いいんだ、」と思いつつももう一度仲睦まじげにしている二人に視線を向けた。
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