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そんな杏里に対してピーターは特に嫌な顔をするわけでもなくケラケラと笑いながら、またふわりと浮かんで宙に浮いていたケーキを頬張った。
「それじゃ、僕らはそろそろお暇させてもらうよ」
「え。もう行くの?」
「ウェンディには時間が限られてるしね。早くしないと君の世界は朝になっちゃう」
時間は有限、と躍るように地面に降りてきた彼女はそのままティンクの隣に立つと微笑みを浮かべて振り返った、のと同時に扉が閉まる音が聞こえヤマネがいたはずの方に目を向ければ彼はいなくなっていた。茶缶もなくなっていたので少し残念そうに眉尻を下げた。
「それでどうする?次、いく?」
「え、あ……うん……行こうかな、」
行くのならヤマネに挨拶をしておきたいのだが、と思いながらチラチラと家の方に目を向けていれば帽子屋が立ち上がりこちらに近づいてくる。
「まぁ、アリスが来れば物語が進みそのついまた出会うこととなるだろう。
ヤマネには私から十分注意しておくから、今は少年と共にお行きなさい。お嬢さん」
近づいてきながらも、テーブルに置かれた使用済みのカップを地面に落として割っていく帽子屋が不気味なのに対してとても紳士的で優しげな声でそんなことをいうものだから思わず「え」と困惑の声が漏れ出てしまった。三月うさぎはいまだにホールケーキが食べ終われずに一生懸命食べている。
胸焼けとかしないのだろうか、なんて重いながら杏里は帽子屋の言葉を聞いてから恐る恐るピーターの方に視線を向ければ彼女は視線が合うと肩をぽん、と叩いてきた。
「そうそう。どうせアリスももうすぐ来るだろうし。
僕らは次の場所をのんびり目指していこうよ。ね?」
にっこりと笑ってそういう彼女に杏里も拒否することなんて出来ずに困惑したまま頷いて立ち上がってしまった。
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