『Rabbit‘s House and Crazy Twins』

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  『Rabbit‘s House and Crazy Twins』

 蔦の向こうは特に変わった様子のない森が広がっていた。  小さな何かが囁く音が聞こえてきて、先ほどまで明るく楽しかった気分が急転換して気分が落ち込んでしまうような感覚に心が沈む。ピーターはこちらをチラリと見ると不思議そうに首を傾げてみせた。 「どうだった?」 「あっちの方が楽しかったかなぁって」 「まぁこっちは陰険なやつが多いからね。でもあそこにずっといると頭可笑しくなるから長居は禁物だよ」  歩き出すピーターの背中を見ていれば横を通り過ぎる大男の圧に思わず肩を跳ね上げた。通り過ぎたティンクは冷たい視線を一瞬ばかり彼女に向けるとピーターの隣に立って少し屈んでみせた。  何かを耳打ちするようなティンクの屈んだその背中。彼が羽織っている上着に隠れたピーター。そのせいで何を話しているのか本当にわからない。思わず足を止めて少し距離を取ったところでその光景を見つめていればティンクが立ち上がった。 「どうする」 「まぁ、一応このまま進もう。物語が進み始めていたとしても、どうせ僕らも止まることできないんだし」 「わかった」 「ティンクは気にしなくていいよ、取り敢えず様子見」  そう言ってティンクをみたピーターはそのまま微笑むと彼の頬にキスをした。突然の出来事に彼女はその瞳を大きく見開いてしまった。父親と母親が目の前でキスをしたぐらいの衝撃だった。何故かこっちまで恥ずかしくなってしまう感覚に視線を逸らしてしまった。  一体何を見せつけられてるのかわかったものじゃない。そんなことを思っていれば耳にさらにリップ音が聞こえてきて、またやってると思いながら視線を向ければティンクが何故かピーターから距離を取って構えていた。 「あはは、ほんっと……かぁわい」  目を細めて意地悪く笑うピーターに何があったのかなんて無粋なことは聞かない。わからないほど子どもでもないつもりだ、本当になんてことを人前でするのだろうかと呆れさえ覚えている。 「それで、……次はどこに行くの? ここで終わりじゃないんでしょ?」 「うん。今、先に白うさぎの家に行こう。あいつなら今あそこにいるだろうし……そろそろ物語が始まるかもしれないし 「物語?」  うーんと唸りながら腕を組んで首を傾げるピーターの言葉に始まるとはどういうことか、と思っていればピーターはにっこりと可愛らしい笑みを浮かべて口を開いた。 「すべての役が揃ったら、物語通りが進み始めるんだよ」 「役が揃ってなかったの?」  「揃ってたんだけどね。アリスがやる気なくて困ってたんだ」  つまるところ、この不思議の国はアリスが動かなかったら物語が始まらずじまいだったってことなのか、なんて考えながら首を傾げた。
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