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始まらないと困ることがあるのか、だったら無理矢理にでもせっついて始めさせればいいのにと思ったところで離れていたティンクが近づいてきた。
「役がいようがいまいが……物語が進もうが進まないが、この世界全体的には関係無い。物語は所詮俺達役持ちの暇潰しなんだからな」
「暇潰し……?」
「そう。所詮暇潰しだ。
俺達はそっちの世界ではハグレ者で、……」
どうせ、と呟いたところで彼の轟々と燃え盛るような瞳が仄暗く揺らめいた。何を言いたいのかはわからないけれども、それを追求してもいけないような気がして思わず視線をピーターに向けた。彼[#「彼」に傍点]はこちらには目もくれず何かを考えるような表情で、片手を顎に添えていた。
ティンクに視線を戻せばこちらには見向きもしないままピーターの方に足を向けてしまった。恋人でも親子でも兄弟でも無いあの二人の関係は本当に一体なんなのかわからないし理解もしたくないが、早く進んでほしい。
「よし。取り敢えず進もうか。白うさぎの家はいいよ〜。あいつの見た目にそぐわずすっごく可愛いから」
ウェンディも気にいるよ、と悪戯に笑うピーターの言葉に目をぱちくりとさせてから視線を外した。この薄気味悪い森からさっさと離れられるのならそれでいい。ピーターの後を追いかけるように歩き出すティンクのさらに後ろを追いかける。
歩けば口がラッパになっている鳥のような二足歩行の生き物が横切った。高い音を出してこちらを睨んできたその生き物が不気味で小走りに二人に近づいた。
「ダッパーじゃん。あはは、びっくりしてる?」
「なんかびっくりっていうかキモイ……」
「だよね〜。でもあれが此処では可愛いし、ついでに美味いんだよねぇ」
そこらにいっぱいいるし、と吐き捨てながら足元にやってきたそのラッパのような鳥を蹴散らしながらピーターは先を進む。蹴散らされたその鳥達は隊列が崩れて困惑したように周りを駆け出してから森の中へと隠れるように走り去っていく。
森の奥からはこちらを見るように目玉が暗闇から覗いているのがまた不気味で仕方がない。
「そういえば、質問とか無いけど大丈夫そ?」
「え。あー……一個聞きたいんだけど、ほら。あそこの、帽子屋さん達の家で飲んでたジュースみたいなの……なんか、宇宙みたいな液体の、あれってなに?」
「安直にいうとスペースティってね。宇宙の紅茶。味は、んー……まぁ、普通に美味しいかな?」
「宇宙の紅茶……紅茶なんだ……」
「まぁあの色味だしね。作ったのは三代前の帽子屋だよ」
あいつは紅茶作りが上手だった、と懐かしむように目を伏せたピーターだったが次の瞬間にはティンクに抱き上げられて、彼女もまた驚いたように目を丸くさせた。
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