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こちらからティンクの顔は見えないが、ピーターは見えるらしく彼の顔をじっと見つめるとそのまま微睡んだような、蕩けたような笑みを浮かべてそのまま彼に抱きついた。
いや、マジで何みせられてんの? 思わず真顔になってしまう彼女をよそに二人は顔を近づけて何かを話している。
「ウエンディ、聞いて。ティンクってば本当にヤキモチ妬きなんだけど〜」
可愛い〜、なんて言うピーターに呆れさえ抱いて適当な返事を漏らしてしまうがきっと悪いことではないだろう。だが、すぐにも地面に降ろされたピーターは浮き足立つ様子でこちらに近づいてきた。
「じゃあ、次に行く場所なんだけど」
「し、白ウサギ! 白ウサギの家に、行ってみたいなぁ」
「え、さっきも言ったじゃん。見た目にそぐわないかわいい家だからウェンディも気にいるだろうからって。聞いてなかった?」
そういえば、言っていた気がする。というか、言っていたな。物語が始まるとかなんだとか。
「物語が始まるって、アリスがやる気がないって言ってた気がする……」
「そうそう。今回のアリスは物語通りに進めるのがイヤらしくてね。結局彼女もストーリーが終わったら元の世界に帰らなきゃいけないタイプの登場人物だから」
まぁ残るか残らないか選べるんだけど。と言い捨てながら歩きだすピーターに思わず目をぱちくりとさせた。
ウェンディ以外にも、帰れるキャラクターがいたのか。という驚きである。ピーターもなんとなくこちらの考えていることがわかっているのか笑みを浮かべて視線だけをこちらに向けてきた。
「アリスも特殊なんだよ。まぁ、大抵のアリスは戻らないことを望んで何度かアリスを繰り返して、飽きたら違う役を求めたり気がついたらいなくなってたりするから。
こういう役に当たった子って大体帰らないって言うんだよね」
「え、なんで?」
「世界に見初められて、ピーターが役に選ぶからだ」
ピーターの代わりに答えたティンクの声が背中に届く。低い声もそろそろ慣れてきて視線だけ男の方へと向ければその鋭い瞳がこちらを貫いた。
自分たちよりもゆったりとした足取りなのに自分たちに簡単にたどり着くのはその背丈と足の長さのおかげだろう。なんて、場違いなことを考えながらも彼女は不思議そうに首を傾げた。
「世界に見初められてって、どう言うこと」
「そのままの意味だ。この世界に役として連れて来られる子どもは親に『悪い子』と言われ、居場所を失くしたようなヤツだ。
ピーターが一々それを確認して全員に声をかけられるほど、お前の世界は狭いのか?」
「……」
普通に考えて、無理だと思う。だが、だからと言って世界がそれを見つけてピーターに命令すると説明されたとしても、それはそれでおかしな話になるからどうしても考えが結びつかない。腕を組んで頭を悩ませる。
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