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「それもそうだよね。でもそれがハートの女王だしね。そう言う人だし、仕方がないと思うよ」
自己完結するように腕を組んで頷く彼の言葉に何も言い返せなかった。そう言って終えばそうなのだ。所詮は物語の中の住人でしかないのだし。それにしても我儘すぎるキャラクターだと思う。
「もし、お姉さんがハートの女王なら、どうやって国を統治する?」
「……え、私が?」
「そ。どうする?」
途端、真剣な眼差しでこちらを見つめる瞳が急に不気味に思えた。満月の双眼がそこに鎮座している様は、少し怖くて思わず居心地が悪くて考えるふりをして視線をそらしてみる。
「と、りあえず……もう一度規則を考え直すかな……ほら、ワンダーランドって頭の可笑しい変な人が多いのはわかるんだけど、簡単に死刑にしちゃったら人口が減ってそれこそ国がなりいかなくなっちゃいそうだし」
「おっとなぁ〜」
「そりゃ、もう十四歳だしね。もう立派な大人の仲間入りしてるんだから」
だからこそ、母にはもっと自分の意見にも耳を傾けてもらいたいのだ、と昨夜の母との喧嘩を思い出してしまい思わず眉を顰めてしまう。彼はそんな様子の杏里をみるとニコニコと笑いながら頬杖をついて顔を近づけてきた。
「なんか嫌なことあった?」
「え」
「眉間に皺寄ってるよぉ」
「……ちょっと親子喧嘩をね。
この年齢にならよくあることよ。私に悪い子になるな、なんて言って……そう言う風に仕組んでるのはママなのに」
本当に腹が立つ、と腕を組んでいれば彼は積み重ねた本以外を手に取って立ち上がってしまった。
「ママのことは嫌い?」
「怒ってばっかのママはね! ていうか、もう行っちゃうの?」
「もう直ぐ戻ってくると思うからね。その三冊は読んでもいいし、適当に返していいから」
あとよろしくね。と笑って歩き出す彼はやはり日本で見ると一人浮いているような、不思議な雰囲気を醸し出していた。
年下に恋なんて絶対ないと思うけど、あれくらい顔の整った男子と付き合ってみたいもんだよねぇ、とありもしない想像を掻き立てながら杏里はそこに放置された積み重なった三冊を撫でてみた。
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