夕暮れの公園にて

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 沈黙。  警戒しているのか、黙ったまま、少女はきいきいと音を鳴らして、ブランコをこぐ。けれど、どこかへ行ってしまおうとはしない。  きっと、この子も自分と同じなのだと思う。  ここを出ても、どこへも行けない。  だから、ここにいる。そういうことなのだ。  きゅるる。  そんな音が不意に聞こえた。  隣の少女の方からだ。  視線を移すと、少女はお腹を押さえていた。公園の時計はもう、7時近くをさしている。  もう一度ポケットを探ると、指先に何かが当たった。取り出してみると、それはお守りだった。たしか、誰かが持っていなさいと渡してくれたものだ。  一体それが誰だったのか思い出せない。  きゅるる。  考えに沈んでいきそうになった意識は、またなった音に引き戻された。反対のポケットを探ると、入れた覚えはなかったけれど、ミルキーが一つだけ入っていた。 「あげる」  少女の方に差し出す。  綺麗で大きな目が見ていた。  しばし、躊躇い。 「いらない。知らない人にものもらったらだめって、おかあさんがいってた」  聡い少女は精一杯の強がりで言った。それでも、ほしい。という気持ちが表情に溢れてしまっている。 「知らなくないじゃん。名前知ってるだろ? ええっとね。それだけじゃだめなら、家はね。5番町のお寺の近くでね。お父さんと、お母さんと、にいちゃんと4人で住んでるよ」  これだけ知ってたら、知らない人じゃないよ。と、言って、その手にミルキーを握らせた。  そうしたら、少女は頷いて、すごくすごく嬉しそうに笑った。始めて見る笑顔は、本当に天使みたいだった。 「……あのね」  飴玉を口に入れて、ころころと転がしながら、少女がぽつり。と、言った。 「おにいちゃんは、おばけっているとおもう?」  視線を地面に落としたまま、続ける。 「おばけ?」 「うん」  少女はこくり。と、頷く。 「……きこえるんだ。いろんなひとのこえ。たすけて。って、いうの」  青い。  光が見えた気がした。  ほんのわずかにだ。儚くて今にも消えてしまいそうな青い光。 「みんな、みんな。なんにもできないのに。たすけて。たすけて。って、いうの」  そう言って、少女は顔を上げた。その瞳が青く光っているように見えた。気がした。 「でも、おばあちゃんは、それがあたりまえだっていう。……こわい。たすけられないよ」  光っていると思ったのは、街灯のLEDの光を反射した涙だ。その子の瞳ではない。いつの間にか太陽の残り灯は消えて、空は夜になっていた。 「いない!!」
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