夕暮れの公園にて

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「いない!!」  堪らない気持ちになって、大声で叫ぶ。  たとえ、そういうものがいるとして、それがどんなに可哀想な過去を持っていたとしても、それを背負わなければいけないのは、この子ではないと思った。こんな小さい子に助けてなんて、無理に決まっている。 「いないよ。そんなの。大丈夫!」  立ち上がって、ブランコに座った少女の前に座り込む。そして、その目を見つめる。 「いない! 絶対にいない。ほら。これ」  ポケットから出てきたお守りを、少女の手に握らせる。それは、小さな鈴が付いた青い石のストラップだ。誰からもらったかも、いつから持っていたかもわからない。ご利益があるかなんて知らない。ただ、少しでもその子に安心をあげたかった。 「このお守り、すごく効くんだよ。きっと、守ってくれる。だから、大丈夫」  後で、考えると、バカ丸出しだと思う。  いないと言いながら、それから守ってくれるってどういう意味なんだ。と、恥ずかしくなる。  それでも、ガキだった自分にはそれが精一杯だった。 「……いない?」  呆けたように、少女は言った。今、はじめてその言葉を知ったような顔だった。 「うん。いない。だから、安心して、家へ帰りな?」  渡されたストラップをじっと見つめてから、少女はそれをぎゅう。と、握りしめた。それから、顔をあげて、笑う。やっぱり、可愛い笑顔だった。思わず見惚れてしまうほどだ。 「おにいちゃん。ありがと」  とくん。と、小さな鼓動の音が聞こえた。  さっき、恐怖で高鳴ったのとは違う音だ。 「……うん」  それが、何かわかる前に、少女が立ち上がる。 「あ。もう、かえらなきゃ。お母さんにおこられる」  すっかり暗くなってしまった空を見上げて、少女が言った。 「おにいちゃん。こんどはあそんでくれる?」  くるり。と、振り返って、大きな瞳が見ている。きらきら、と、街灯の光でさえも綺麗に光るその瞳を太陽の下で見てみたいと思った。 「うん。うち、遠くじゃないから、また遊びに来るよ」  そう答えると、少女が笑う。泣いている顔も、可愛かったけれど、喜びに上気する顔は見るだけで嬉しくなるような美少女だった。  ここに来たときには暗く沈んだ気持ちだったのに、この出会いだけでも、気持ちが軽くなった気がする。自分のことは何一つ片付いていないけれど、同じように行き場を失くしていた誰かを助けられたことに、自分自身が救われていることに気付いた。 「うん。じゃあね。約束だよ?」  背中を向けて去ろうとする少女に、忘れていたことがあると気付く。 「あ。ちょっと待って」  声をかけると、少女は振り返った。 「名前。教えて」  そういうと、少女は形の良い唇開いた。 「すーちゃん」  そう言って、少女は走り去った。
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