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9.初授業
それぞれのつかい魔もクラスも決まり、新入生たちが授業を始める準備は整った。今日は、新入生にとって最初の授業が始まる日で1時間目は担当教師の授業である。
「マユイは、ジオ先生のクラスだから次の呪文学の時間にね。またね」と言って、シダはメイアを連れて行ってしまった。
マユイは、渡り廊下を一人でとぼとぼ歩きだしたが同じクラスの子たちが後ろからぞろぞろと歩いてきたのに気付いてはっとした。その中から、レイメルがマユイの方へ小走りでかけ寄ってきた。
赤色のリボンで、三つ編みをつくっている。
「ごきげんよう、マユイちゃん。今日は初授業だね。たぶん、教科書の5ページ目にある校歌の練習があるよ。毎年、それが最初のテストの課題なんですって」
「まじか。歌うの苦手なんだよな」
「よくそれで、ジオ先生のクラスに通ったわね」
「いや、それには色々と経緯があって」
「あ、でも効果の練習の前に精神統一の瞑想や呼吸、基本の呪文について簡単にお話があるかも。これも毎年らしいわ。先輩にミリちゃんが聞いて、それを得意げに話してた」
「そうなんだ、情報が早いね」
そんな風に話していると、すぐに教室についた。教室に入ると、ジオ先生がばたばたして変な機材を重たそうに運びながら準備している。フラスコやアルコールランプのようなものまで置いてあるが、あだら先生の協力があったのかもしれない。
何に使うのか、よくわからずこの教室ではやや浮いている。元々は、魔法生物のクラスが使う第二教室だったので羽のあるライオンのはく製や目が三つある羊の頭の大きなホルマリン漬けが置いてあった。
レイメルは、それを見てひっと声を小さく上げたがジオ先生がまた、その声に驚きピアノの上のペン立てをがしゃんっと落とした。
「わー、びっくりした」と言って、ペン立てと零れ落ちたペンを拾い集める。
初授業の準備で慌てているのか「あー、ペン立て落ちちゃったじゃんか」と、やや不機嫌である。
「すみません」と言って、すごすごとレイメルとマユイは席の方へ向かった。
その他は、ジオ先生がクラス分けでつかっていたエネルギーをはかる機械や蓄音機に似ているが大きな電球が2つ付いている風変りな機材、人の背程のオルゴールのようなものも置いてあり陶器で出来た魔女と猫の人形が踊っている。
席は決まっていないようだが、机にはプリントが一枚ずつ配られている。マユイが座った席の横に、レイメルも座った。生徒の机は、一般的な小学校の学習机のような作りだがテーブル部分は黒くパイプ部分は真っ白だ。ほぼ汚れがなく、入学式のタイミングで新しく買われたものかもしれない。
「やっと、終わった」とやや汗をかきながら、ジオ先生が準備を終えたのか生徒の方を向き直った。
「改めまして、霊力・音楽を教えるジオです。今日は、校歌の紹介と霊力の授業の基礎的な部分での説明を少しだけ行いたいと思います」
そう言ってジオ先生は、彼の背ほどもある巻かれた紙を広げ黒板に張り付けた。校歌の歌詞と楽譜が書いてある。血のような色で歌詞が書いてあり、藍色のインクで楽譜が手書きで書いてある。
「これは、校長がご存命というか、まぁ今もあのような形で生きてはいらっしゃるが、まだ本の中に棲まわれる前に書かれた貴重なものです。彼とともに学校を建てた、協力者の魔女たちでこの校歌は書かれました」
そう言って、ジオ先生はピアノの前に座り校歌を弾き語り始めた。
『よく噛み お食べ蝙蝠の羽と師の教え
よく よくはたいて落とせよ 制服の埃
黒い苺は一年中 食べ放題
食べる暇はないだろう 呪文は何千万の星の数
ブラックベリー魔女学校 暗くも気高いわが母校』
一番は、このような歌詞だった。この調子でジオ先生はピアノを弾き語り淡々と歌った。3番まで歌ったところで「実は、この校歌6番まであるとか7番まであるとかで、ちょっと怖い話とか出回ってるんだけど実際に君たちが、行事で歌わされるのは2番まで。基本は僕が今歌った3番までね。机に置いてあるカセットテープとプリントで次の授業までに、覚えてきて下さい。1番だけテストするけど、2番まで覚えてきたら技術点低くても、それなりの点数を与えます」とやや早口で説明した。
「怖い話って、どんなのですか?」と一番前に座っている一人が聞いた。
「そう。その話をするために準備を焦ってたんだ。皆、毎年聞きたがるから」そう言うと、ジオ先生はやや嬉しそうに教室の電気を消した。プロジェクターを付け、黒板をどかすと白い壁に白黒の古い映像が流れだした。ブチブチと古い映像特有の砂嵐のような音が聴こえる。
「これは、校長先生が生まれる少し前の時代のかなり古い無声映像なんだ。魔法使いの世界で、最初の映画が有名な短編の恋愛映画があるんだけど、まぁそれもまた今度観せよう。それと同じ時代に作られた映像らしい」
焚火を囲んで、3人の魔女が踊っていたが突然、2人が画面から消えどこからともなく大きな鍋を抱えて持ってきた。焚火にくべ、また3人で踊り始めた。
そして、プロジェクターの画像を変更すると今度は悪魔のような角をはやした赤い顔の男の顔の絵が現れた。
「これが、彼女たちが召喚した悪霊の顔の絵だといわれている。当校では、悪魔や霊を呼び出さない魔法をつかいますね。何かの存在を召喚するならば、ぼくのように物や自然の精霊とか妖精とかそんな程度です。でも彼女たちは、かなり大きくてやばいやつを呼び出してしまった。彼女たちに悪霊は自分に服従する事を求め、その代わりに願いを3つ叶えてやると言ったそうだ。彼女たちは1人1つずつ願いを叶えてもらう事にした。でも、最後の1人が裏切って願いを言わず、彼を上手いこと弱らせ瓶の中に閉じ込めた。悪魔を封印した瓶が、この学校のどこかに隠されていて見つけたら願いを一つ叶えてもらえるかも。ただ、何か対価を要求されたり危ない目にあったりするだろうから万が一、見つけたら僕じゃなくてロウル先生に報告して」
そう言うと、この話は終わりと言ってプロジェクターの電源を消し片付けてしまった。
「はい、授業に戻りますよ。教科書出してー」と声をかけると皆、少しざわつきながらも素直に教科書を用意しだした。
「映像怖かったね。ジオ先生、最初からかなり引き込んでくるじゃん。でもあれだけ長く、瓶に閉じ込められていたらかなり怒ってて願いを叶えてもらえなさそうだね」とマユイは楽しそうに笑った。レイメルが「マユイちゃん、怖い話好きなの?その悪霊に願いを叶えてほしいかといわれると、かなり疑問だけど」と言うとマユイは、確かにとまたふふふと笑った。
その頃、シダとメイアはロウル先生の授業を受けていた。一度、教室に集められたが箒での飛行訓練で他のクラスに遅れをとるなという話と試験で優秀だった者の戦闘部への入部についての話がほとんどで、その後は運動着に着替えさせられ大講堂でランニングとトレーニングの時間だった。
トレーニングの前に「君たちは、他のクラスと比べ運動能力や瞬発力、決断力や問題可決能力がかなり高いという事で俺のクラスに振り分けられている。単純に人並みに体を動かせる事以外に、他に突出したものはなさそうだというやや心配な子もいましたが、まぁ授業を受けていれば何とかなるでしょう」というシダたちにとって、やや心が冷えるようなお話があった。
マットが床一面に敷かれた大講堂で、ロウル先生の指示のもと背の順に並び地べたに座った。
「東洋のヨガというものを、人の世から来た子は知っているかもしれません。それにちなんだ魔女用の準備運動をまず、教えます。運動の授業がある時はこれをまず最初にしっかり行う」
最初は、あぐらをかいた状態になり深呼吸を50回させられる。その後、黒猫のポーズと魔女見習い体操、陽の礼拝、月の礼拝等をした。
準備体操でふらふらになる者もいた。シダも、少し息切れしていたがメイアは割と元気そうだ。元々、体が柔らかく柔軟性がかなりあるようだった。
「準備運動は、これで終わりです。次は、走ります。箒に乗るには、体幹も大事ですが持久力も必要です」そう言って、ホイッスルを鳴らすとロウル先生は先頭に立って走り出した。
シダとメイアも、皆について走り出した。
「大変なクラス入っちゃったね」とメイアは、息切れするシダを見ておかしそうに笑った。
【続く】
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