5.とんでもない昼食、学校の秘密

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5.とんでもない昼食、学校の秘密

今日は新入生のためのテストと適性検査の結果が、わかる日だ。その前に、まずはこれから、昼食の時間。 シダとマユイ、そしてメイアは食堂で昼食を食べていた。 昼食は、食堂で食べる者とエリさんのサンドイッチ屋でサンドイッチを買って校庭や空き教室で食べる者がいた。 食堂では、日替わりのランチセットとコーヒーか紅茶、金曜日にはお菓子のセットが売られる。金曜日のお菓子セットは、数量限定ですぐに売り切れてしまう。 「今日の日替わりランチ。コウモリの羽の骨付きフライ、毒抜きマンドレイクの薬膳スープ。蛙肉の味ごはん。本当に、絵本に出てくる魔女の料理みたい」とシダは、愕然とした顔でメニューの看板を見た。 「こんなの、これから毎日食べるってこと?」とマユイも泣きそうな顔になっている。メイアは、マユイの背中を擦りながら自分も、えずいて吐きそうになっている。 「やぁ、おまちかねのランチだねー。コウモリの羽のフライじゃん。僕これ、大好き」 ジオ先生が、3人の後ろから突然表れた。そして、銀色の皿やフォークとスプーンを慣れた手付きで赤色のトレイに載せる。 「今日が、初めてのランチだよね。ほら早く、取って。売り切れることはないけど、もうすぐ混んでくるよ」 「コウモリの羽とか、食べて大丈夫なんですか?」とメイアが聞くと、ジオ先生は笑っている。 「そんな事言ってたら、一気に痩せ細るよ。栄養とらないと、ロウル先生の授業なんか1回目でぶっ倒れるに決まってる。ここの食事を拒んで、倒れる生徒が毎年、10人は出る。どうしても受け付けない生徒は、馬鹿みたいにでかくて痛い栄養剤注射を保健室でエリさんが毎週1回してくれる。あと、全然美味しくない生ぬるいオートミールを日に4回支給してもらえるよ。人の世界から来た君たちには一見、不気味に見えるかもしれないけど、毒も抜いてあるし、安心安全、栄養満点で、しかも美味しい。そして、ブラックベリー女子の料理人は、とても優秀でね、一度も食中毒を出した事がないんだって」 3人は、ジオ先生の長ったらしくも尤もらしい説明を聞いてランチを食べる事にした。ジオ先生の真似をして、赤いトレイに銀色の皿と木製の黒いフォークとスプーンを載せていく。 「あれ、ジオ先生こんにちは。コウモリフライは、今日は1羽だけですよ」と黒いフード付きの作業着を着た顔の見えない料理人が挨拶した。 「あー、どうも。今日は、1羽だけなんですね。残念だな」 「いやいや、でかいのが入りましたんで。ほら、見て下さいよ」 「うわ、こんなでかい羽のコウモリ森でも見たことないな」 「旨いですよ。そのへんのコウモリみたいに皮ばっかりじゃなくって。筋肉がしっかりついているんです。肥えたくない年頃の女の子には、1羽で充分でしょう」 「なるほど。さぁ、3人とも1羽ずつ頂きなさい」 シダたちは、顔を青くしながらも皿を差し出す。狐色に揚がった衣に覆われた黒いコウモリの羽がジュージューと音を立てて、皿に載せられた。料理人は、その上にこってりしたピンク色のソースをスプーンでぺしゃっと雑にかけた。 「このソースは、何ですか?」とマユイは、声を震わせながらジオ先生に尋ねる。「ランチなんかで、そんなに怖がっててこれからどうすんだ」と呆れた顔をする。 「赤かぶと三頭鳥の玉子のマヨネーズソースですよね?」とジオ先生が料理人に聞くと、彼は親指を上に立ててグーサインをした。 「三頭鳥って、何ですか?」とシダが尋ねた。 「わかんないけど、三つ頭がある何かの鳥だよ。だいたい食用で使われるのは、家鴨の三つ頭のやつとか、もっと安いのだと鳩科とかかな。三頭鳥の玉子なんか、産地から種類までピンからキリまであるからさ、あんまり細かい事聞くと、怒られちゃうよ」とジオ先生は、少し小声になった。 「次は、マンドレイクの毒抜きスープだね」 「マンドレイクって、確か叫ぶ植物ですよね」 「ああ、そうそう。マユイちゃん、よく知ってるねー」 「薬膳ってことは、他にも色々と入ってるんですね」 「そうだね、ゾン先生とかあだら先生の授業を積極的に受けると、給食で出てくる野菜の種類や効能に詳しくなれる。効能を知っていた方が、知らないで食べるより効き目が高まるんだよ」 蛙の味ごはんまで、受け取ったところで食堂の中央の柱近くの席にしようという話になった。ジオ先生も、ロウル先生とあだら先生の姿を見て、同席するのを避けたいということでシダたちと一緒に座ることになった。 ジオ先生が「飲み物、もらうの忘れてた君たちアイスティーで良い?」と聞くので、3人とも頷く。 アイスティーのポットの置いてある棚に右手を伸ばし、右手をくるくると回すとコップが4つ浮かび上がりポットから均等に4杯分アイスティーが注がれた。丁寧に、氷が2つずつ入れられ空中に浮かんだまま、こちらに運ばれてくる。 テーブルにたどり着くと、やや乱暴な音を立てカタカタっとコップ達が着地した。 「ただのハーブティーだから、安心して飲めるよ。ミントの香りがする。午後は今の季節、眠くなっちゃうから目覚ましブレンドかな」 マユイは両手を組んでお祈りをしようとし、 シダは両手を合わせようとした。 「何してんの。魔女学校では飯食べる前に、お祈りなんかするな。コウモリが可哀想だろ」 そう言うと、ジオ先生は骨付きコウモリのフライにシャクッとフォークを突き立てかぶりついた。何度か、咀嚼してアイスティーで流し込む。 「まあ、そんな決まりはないからお好きにどうぞ」と言って、食べて食べてと3人に勧めた。 コウモリフライは、結構な大きさがあるのにナイフもなくジオ先生のように突き刺して齧りつくしかなかった。 「え、美味しい。普通のお肉みたい」とメイアはとても気に入ったように、がつがつ食べている。シダも、マユイも確かに思ったよりまともな味だとわかり、ほっとしながらも恐る恐る食べ進めた。 「君たちは、ブラックベリー女子に入れて、嬉しい?」 ジオ先生は、ランチにがっつきながらシダたちと目も合わせずそんな事を聞いた。 シダは「いや、いつの間にかいた感じなのでよくわかんない感じですね」と答える。 メイアは「そうですね、こんな美味しいものに出会えましたし」とランチに夢中である。 マユイだけは、何も答えずぼんやりとして薬膳スープをかき混ぜている。 「せっかく、精霊を扱う力を得たんだからもう少し喜んでよ。僕、期待してるんだよ?」とジオ先生は、マユイの左手を優しく撫でるも、マユイは「あはは」と愛想笑いをして触れられた手を引っ込めた。 「1年生にも、これから話はあると思うけど。この学校はね、優秀な生徒が多いクラスの先生には賞与や良いポジションが与えられるんだ」 スープをスプーンを使わずに皿ごと持って飲んでいたメイアは、ジオ先生の言葉を聞いて驚き、思わずむせた。 「は?それって。マユイを、利用したいってことですか?」 メイアが咳をしながら、聞くとジオ先生が棚に手を伸ばして紙ナプキンを数枚浮かばせて、メイアの方へ飛ばした。 「利用って、人聞き悪くない?生徒が向上心を持って、授業に取り組むための有益なシステムだと思うよ。前期までは、あだら先生がずっと一位なんだって。今年は、僕が一番になりたい。たくさん、賞与もほしいしこの学校でこれから良いポジションにもつきたいんだ。ロウル先生にはあんな風に言われたけど僕はあの事が起こって、良かったと思うよ。マユイちゃんにとっても、僕にとっても」 マユイがテーブルの際まで引っ込めた左手を、ジオ先生はぐっと腕を伸ばして無理やり取り、今度はぎゅっと握った。 「君が、他のクラスに行ったら悲しいな」などと、マユイの目を見つめながら言う。 「なるほど、これがブラックベリー魔女学校でなんですね」と、かたかたと震えながらシダは目を丸くして青ざめている。 メイアは、ジオ先生を冷めた目で眺めながらアイスティーをちまちま飲んでいた。もう、むせた喉は大丈夫なようだ。 「入学したばかりで、この話を聞けるなんて君たちは運が良いよ。良かったね。こういう先生、と仲良くなれて」 ジオ先生は、ご馳走さまでしたーと微笑むとマユイの掌を頬に当てキスするような仕草をし席を立ってしまった。 「どうしよう、この学校やばい魔女学校だ」とシダが頭を抱え、呆れ笑いをしている。メイアは「あの先生だけじゃないの?」と、眉間に皺を寄せてマユイを睨んでいる。「は?私、協力とかしないよ!?」とマユイは、慌てている。 「どうしたの?また、ジオ先生に変なこと言われた?」とランチを食べ終わって、片付けにあだら先生がロウル先生を連れて通った。 メイアが、ジオ先生から聞いた話をわーわーと不満気に訴える。ロウル先生は、うんうんと半ば哀れむように失笑しながら頷いて聞いた。 「本当に、あの先生は」とあだら先生は、面白そうにくすくす笑っていた。 ロウル先生は「いや、ジオ先生の言っている事は嘘ではないんだ。ただ、優秀な生徒や可能性のある生徒をそういう態度で引き抜こうとするのは、魔女を教える側の講師としての品性を疑うかな」と言う。 あだら先生は「え、でも、そういうことも往々にしてありますよね?僕のこと好きな生徒は、やはりかなり頑張ってくれますよ?」とあっけらかんと笑っている。 「あの先生は、あからさま過ぎるんですよ!」とロウル先生は、大きな溜め息を吐いて返却口に皿を乱暴に返した。 「あからさまじゃなければ、いいんですか?」とあだら先生は、可笑しそうに畳み掛ける。 「いや、でもジオ先生はまだ1年目ですし考えが甘いかな。優秀な魔女っ子が多く入れば1位になれるというわけでもないんです。ロウル先生の箒の飛行教習免許みたいに、他の先生が持たない資格や技能を持つとかも高い評価に繋がる」 「あだら先生は、魔法の腕も教え方も実力がありますからね。前期まで、3年連続1位でしょう。それに、この学校で1位になったところで貰える賞与なんて、たかが知れてるじゃないですか」 「ちょっと、面白いからそのまま頑張ってほしい気もしますけど。1位になって、良いポジションをとることなんて気にするの、1年目か2年目の先生までですよね」 「まあ、そんなところだから。お前ら、あんまりジオ先生に振り回されんなよ。面白いけど」 あははははと、ロウル先生とあだら先生は笑い声を上げて食堂を出てしまった。 シダは「なんだ。良かった」とほっとして、肩の力を抜いた。マユイも、何だか拍子抜けと呟いて残りのアイスティーをぐいっと飲み干した。 「次、クラス分けの発表だ。早く、講堂行かないと」 メイアが腕時計を見て、あと20分で昼休みが終わる事に気付いた。早足で行かないと、間に合わないかもしれない。 【続く】
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