7.使い魔探しに森へ

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7.使い魔探しに森へ

シダとメイアは、ロウル先生が率いる列についていき森の奥までどんどん歩いていった。雨はまだ降っていないが、空を見上げるとどんよりとした曇り空である。湿っぽい空気が漂っていて、雨の匂いはすでにしている。 ロウル先生は、張り切っているのかいつにも増してすごく足が早い。皆、お喋りもせずに必死についていく。 「よし、ここが穴場だ。使い魔探しは、毎回ここを紹介しています。猫も多いし探せば、ジオ先生が飼っているような竜もいるかもしれません。蝙蝠の巣も蛇の棲み家も多いから、大抵の人はすぐに見つかるだろう。毒蛇や火を吹く種類の竜、吸血蝙蝠を見つけた場合は、自分たちで捕まえず必ず、近くの先生を呼んで下さい」 それだけ伝えると、ロウル先生は「私は、ここで待ってるので」と岩に腰かけた。皆がぞろぞろと、ロウル先生を離れ使い魔探しを始めた。 シダとメイアも、さっそく探そうという事になったが、まずはどのような生物を狙うか決めなければならない。 「猫が無難かなと思うけど、森に猫なんかいなくない?普通は」 「放し飼いして、繁殖させてるとかいう話聞いたけど。メイアは、何探すの?」 「蝙蝠が、いいな。猫、森に放すとか生態系崩れそう」 「魔法で何とかなってるって事じゃないかな」 ロウル先生が準備した地図によると、猫集結スポットと蝙蝠の巣がある場所が近いようだった。 巨大な広葉樹が、大きく枝葉を広げて立っている。シダが手に持つランプの灯りで木の根元を照らしてみると、黒猫が複数匹隠れていた。 一匹だけひょこひょこと歩いてきて、シダが左手に持っていた魔法生物専用フードのササミ肉に噛みついた。 「わ、この子にしようかな」とササミ肉を渡すと、シダは寄ってきた黒猫を抱きかかえた。 「よかったじゃん。早く見つかって」と、メイアが笑うと他の黒猫は、にゃーにゃーと鳴き声をあげて木の根や裏に隠れていった。 「すごいね。逆に、私たちが選ばれてるみたい」とシダ。 「私も、早くかっこいい蝙蝠見つけなきゃ」とメイアは、意気込んだ。蝙蝠の巣も確かこのあたりである。 その頃、ジオ先生のクラスは森の中心あたりにある森の中で最も鳥類が多いという杉のふもとに到着していた。 「はい、着きましたよー。この場所は、鳥類が最も多いとされます。魔法生物の森ですから、ここにいる鳥はただの鳥ではないという事はもうわかっていると思うけど。火を噴くような鳥もいるから、そういうのいた時は近くの先生呼んで。気を付けて触れ合うようにしてね。よーし、それでは探しに行って」とジオ先生は、簡潔に説明し自分はまた、マントからハープと椅子を取り出して、品よく腰掛けて優雅に演奏を始めた。 マユイは、使い魔探しに行く前にジオ先生に聞きたい事があった。 「ジオ先生、鳥はどうやって捕まえるんですか?」 「あぁ、言ってなかったけど。自分の使い魔に適しているなら、鳥自ら寄ってくる事もあるよ」 「そんなすぐ、寄ってくるものですかね?」 「寄ってくるとか、餌付けする人とか、人によると思うけど。あまり捕まえ方とか教えすぎちゃうと、最適なパートナーに出会える可能性を阻むとかで、ゾン先生に口止めされてるの」 なるほどと、マユイは納得し「ありがとう御座います」と礼を言ったものの、途方に暮れた。レイメルは、「私、ピンクかモスグリーンの鳥がいいな」と、期待に胸を膨らませているようだ。 「モスグリーンはまだしも、ピンクはなかなかいないんじゃないかな。確か、教科書の33ページの水鳥の中には一種類、薄桃色のやつがいた気がするけど。水鳥だから、もし本当にあの鳥を使い魔にするなら、植物館の合同の池付き大型鳥かごで世話する事になると思うよ」とジオ先生は話す。 マユイとレイメルが、教科書を開いてみると確かにピンク色の鳥はいた。 「え、けっこう大きいよね」とマユイは少し、驚いて目を細めた。 「なんだか、想像と違うわ。首が長くて、目がぎょろぎょろしてる。羽は、赤色なのね」とレイメルは、少しぎょっとした顔をしている。 そうやって、調べているうちにもジオ先生の周りには、他の生徒が質問に来る。何しろ、生物の捕まえ方を教えていない事でどうしたら良いか皆、分からない。「鳥なんか、飛び回るし捕まえられない」と若干、不満気というかもはや嘆いているような子もいた。 「クラス別に、いったん散らばる事になってるからさ。ここしか、良い場所空いてなかったんだよね。でも、猫も探せばちらほらいるし悪いスポットじゃないよ。鳥も、使い魔として人気あるしね」とジオ先生は、言う。 そして「ほら、もう探しに行って。今日中に見つからないと後々、ばたばたするんだよ。僕も、皆も」と急かしたので、皆は仕方なく散らばっていった。 マユイとレイメルは、水鳥がいる池を目指して歩く事にした。池に続く小道には、雨蛙の鳴き声が響き、背の高い刃先がとがっている雑草、白い蘭や真っ赤な百合のような花が生えている。 「もう蛙でも、良いかな」とマユイが呟くと、「さすがに、蛙はだめでしょ」とレイメルは首を傾げる。 「雨蛙って、かなり小さいし使い魔として飼ってたらすぐ、潰れたりしちゃいそう」 「だって、ジオ先生も見つからなければ蛙かヤモリをあげるって言ってたしさ。レイメルちゃんも、あのピンクの鳥が無理ならそうしない?」 「えぇ、さすがに無理。蛙なんて、どうやって役に立つの?ペットじゃないんだよ」 レイメルは、つまらなそうに溜息を吐いた。 「その通りですね。レイメルさん、するどいですよ」と女性の声がして、ゾン先生が池の方から歩いてきた。大柄な体を、綺麗な青い色のレインコートに包んでいる。 「使い魔は、役に立ってくれますからね。蛙も良いですが、できるだけご自身の手のひらより大きい生物を選ぶのがおすすめです」 「ジオ先生は、竜が使い魔らしいんですけど。このあたりで竜は、見つかりませんよね?」とマユイが聞くと、ゾン先生は「そうですねー」と顎に手を当て、あたりを見回す。 「このあたりは、竜は少ないですが池には水に住む小さな竜が数匹いたはずですよ。普段は、水中に住みますが空を飛ぶ事もできますからね。充分、魔法や生活に役に立ってくれますし、彼らは長生きですからね」 ゾン先生は、それではと一言挨拶すると恭しく会釈をし、笑顔で去っていった。 「どうしよう、行っちゃった」とレイメルは、心細そうである。 【続く】
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