恋が始まる予感

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恋が始まる予感

 翌日、二人そろって寝坊してドタバタと競うように家を出る。  「おや、おはようございます。今日はにぎやかですね。」  お隣の寺沢さんが玄関の鍵をかけながら私たちに話しかけてくれたが今は返事を返すのがやっとだ。  「おはようございます!寝坊しまして!それでは!」  「おはようございます!はじめまして!それでは!」  ちゃっかり弟も挨拶を交わす。  二人そろって駐車場に向かい走っている途中、幸助は息を切らしながら口を開く。  「お隣さんイケメンじゃん。優しそうだし」  イケメン?優しいのは当たっているが今は正直そんなことはどうでもいい。  「今それどころじゃないでしょ!じゃーね!」  車に乗り込みエンジンとシートベルトをほぼ同時につける。手を振る幸助を横目にアクセルを踏みしめ私は会社へと向かった。  「おはようございます」  なんだかんだ始業の15分前には着くことができた。私は荷物をロッカーにしまい自販機で買ったブラックコーヒーを一気に飲み干した。  「豪快だねぇ。朝からやる気満々だ」  話しかけてきたのは倉田主任。私は空の缶を空き缶用のごみ箱に捨てながら答えた。  「やる気は普通です。コーヒーは日課なだけですよ」  「上司にやる気は普通って言っちゃうんだ。さすが藍川さん」  「そういえば上司だったわね」  思い出したように言ったのは大原さん。膝にかけたブランケットをさすりながらもう片方の手ではスマホをいじっている。  「みんなしてひどいなぁ」  泣くふりをしている倉田主任を私と大原さんは楽しそうに眺める。誰も心配などしない。虚しくなったのかため息をつく倉田主任。  「そういえば、さっちゃんて彼氏いるの?」  「え?」  唐突な大原さんの問いに私じゃなくなぜか倉田主任が目を見開く。  「そっ!そういうプライベートな質問は!良くないと思うなぁ!?それより俺トイレ行ってくる!」  倉田主任は私の代わりにとても大きな声で話題を逸らした。別に彼氏がいないってことに焦りとかはないから、言ってもいいんだけど……。倉田主任はそそくさと姿を消す。  「倉ちゃんってほんと忙しいわよね。で、いるの?」  「いないですよ」  別に隠すことでもないのでさらりと答える。  「まだ若いのにもったいない!恋はいいわよ~。この会社、若い男の子多いんだからもっと色気づかないと!」  私の肩をポンと軽く小突いて大原さんはウインクした。  大原さんの若さの秘訣は、きっとそういうことなのだろうなぁと納得する。  「そういえばさっき、産業医のだれだっけ?あのイケメンの先生がさっちゃんに用があったみたいよ。仕事始まったら、応接室に来てって」  寺沢さんが?いったい何の用だろう……。    
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