現実と温度差

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 前方から人が見えた。二人の女性達が歩いている。  明るいカラーのジャージを身に纏い、大きく腕を振って歩いてる。深夜のウォーキングだろう。  どんどん近づくその姿に、私は少しだけ期待した。どうしたの?大丈夫?そう声を掛けてくれないだろうかと……。  しかしそんな事はなく、小さく風を切り、通り過ぎ遠くなる。叫びたかった、助けてください。この子を泣き止ませる方法を教えて下さいと。  その人達は悪くない。そんな事は分かっているのに、見殺しにされたような感情が沸々と沸き、目頭が熱くなる。  感触の悪い涙が頬を伝った。口に入り、しょっぱかった。星は滲み、地面は歪んだ。それでも背中は温かくて、その温かさが私を余計に辛くした。 「──なんで……なんで私を選んだの……」  首元はただ湿り続け、冷える事を知らない。遠くで大きなクラクションが聴こえた。  大きな事故があったのならば、自分がその対象であっても今なら後悔しないとすら考えてしまう。  この頃の私は、きっと消えたかった。自分が悪くない立場で、息子と消えたかった。  消えて来世があるなら、もう少しまともに生きられるから…なんてまたどうしようもない事だけに自信を持っていた。
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