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警察官2人は一瞬目を合わせた。私が少し俯くと、おじいちゃん警察官は言った。
「それはご主人も心配している事でしょう。早く帰ってあげないとね。」
運転席の警察官は頷き、小さくそうですね。と言った。
「子育ては1人で頑張る必要ないんですよ、おじいちゃんおばあちゃんも頼りにされると喜びますから。ご主人と頑張って下さいね」
車は坂を下り始めた。
私はほとんど聞こえない程の返事を「ありがとうございます……」として、直ぐに窓の外に目を向けた。
あぁ、どうしてこんなに世の中は、当たり前の事が当たり前に誰しもあるように生きられるのだろう。ご飯はとても美味しくて、赤ん坊は笑えば可愛くて、朝日は眩しく希望に満ち溢れて。
そんな風に世の中は幸せなんだろうか。
──私は最近、ご飯の味なんて分からなくて、この子が何をしたら喜ぶのか分からなくて、明日が来るのが毎日怖いんです。
頼れる場所なんて、私にはないのです。そう、泣き叫びたかった。
窓に自分が映る。涙は流れていない。ただ口の奥を食いしばってその自分を見つめていた。
そうしているうちに、家はもう目の前だった。
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