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 腕いっぱいの雑誌を抱え、春香は腕時計を見る。椿との約束の時間まであと一時間。今日は秋物の服を買いに行く予定だった。  アルバイトが多く、講義も真面目に受けている椿と予定を合わせるのは至難の業で、今日はたまたま椿のバイトが休みだった日に、春香の講義が休講になったために約束を入れる事が出来たのだ。  なんだかすごく不思議。昔は恋のライバルだったのに、今は仲の良い友達みたいーークスッと笑ってしまう。  さてと、ちょっと荷物が多いから、一度家に置いてこようかなーーそう思っていた時、 「はーるか!」 と背後から声をかけられ、振り返ると同じグループのメンバーが集まっていた。 「みんな一緒にどこか行くの?」 「そうそう。今日は休講で珍しく終わる時間が一緒だったし、明日も休みじゃない? だからみんなで飲みに行こうかって話してたの。春香も行こうよ」 「えー、すごく急だなぁ。っていうか、今日は約束が入っちゃってるの、だから私はパスでお願い」  するとその中の一人が残念そうに声を漏らす。 「最近春香ちゃん、すごく忙しそうだよねぇ。そんなことより、たまには一緒に遊ぼうよ」 「うーん、そうだねぇ……」  苦笑しながら首を傾げたが、心の中では疑問符が生まれる。化粧品会社への就職を目指し、最近は試験についてや、説明会にも意欲的に参加をし始めていた。  ようやく目標が定まり、春香も夢に向かって一歩踏み出したところだった。だがそれを"そんなこと"呼ばわりをされてしまい、ほんの少しだけたけ、カチンときたのだ。  どうして頑張っている私を応援してくれないのかな。認めてくれないのかなーー当たり前のように付き合ってきた仲間たちの中では、私の承認欲求は満たされないのかもしれない。 「でも、約束あるし、また今度ね」 「そっか。じゃあまたね」  春香はそう言い残すと、笑顔で手を振りながら、サッとその場を後にした。
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