プロローグ〜春〜

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プロローグ〜春〜

 それは本当に偶然。  大学三年生になってすぐに、お花見をしようと高校時代の友達と集まった時のこと。  久しぶりに会うから会話が弾み、お酒が入ってみんな陽気になって。楽しいけど少し疲れ始めた頃、買い出しと称して一人で近くのコンビニに向かった。  公園から離れるにつれ、徐々に辺りが静かになっていく。これから公園に向かうであろう人々の流れに逆らうように歩みを進め、コンビニに着く頃には少し気持ちが落ち着いていた。  別に仲間といるのが嫌なわけじゃない。楽しいし、ストレス発散になるし。ただふとした時に、これって"本当の自分"だっけと冷静になる瞬間がある。  明るく元気で誰とでも仲良しの自分を今までずっと作り上げてきた。でも気付けばそれが自分にとっても周りにとっても当たり前で、被ってしまった仮面の外し方を忘れてしまった。  だからこうして突然訪れる冷静な自分こそが、本当の自分なのだと思うけど、なかなか本性を人に見せることは出来なかった。  陽キャはたまに反感を買うが、大抵の現場では明るく柔軟に対応が出来るし、不便さは感じない。その代わりストレスは尋常ではないほどたまるのだが。  それに単純にーー桜の季節が嫌いだからっていうのもあるのだけど。  コンビニに入ると、人混みを縫いながらお菓子や飲み物をカゴに入れていく。  みんなで食べられそうなものーー解散まであとどれくらいの時間かな。  飲み物はお酒の方がいいかなーー本当はジュースの方がいいんだけど。  そんなマイナスの感情を押し出し、レジに並んだ時だった。何人くらい待っているだろうと、前方を覗き込んだ私の目に、驚くべき光景が飛び込んできた。
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