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レジに立つアルバイトらしきの女性に見覚えがあったのだ。一つにまとめた黒髪とメガネ、化粧もほとんどしていないくらいのナチュラルメイク。
あれって委員長じゃない? 毎回クラス委員に選ばれて、真面目で大人しくてーーそして私の好きな人がこっそり好きだった人で、失恋するきっかけになった人物だった。
彼女ーー近藤椿ーーはあの頃と比べて、何も変わっていなかった。
懐かしくて思わず話しかけたけど、変わっていないのは見た目だけじゃなく、中身もだった。
『私なんて』
『可愛い人にはわからない』
『どうせずっと一人なの』
出てくる出てくる、大量のネガティヴワード。どうしてそんなに自分を卑下するのだろう。
だってあなたは彼に思いを向けられていたんだよ? なのにどうしてそんなに自信が持てないの? あなたがいたから、私はフラれたのに……。
だけどその瞬間、私の中に不思議なやる気が湧いてきた。
だって私はーーこんなことを自分で言うのは恥ずかしいけど、努力家なんだから。
「いいなぁ。委員長の恋はまだ続いている。よし、今から当たって砕けちゃえ!」
「えっ⁈ 砕けるのは嫌なんだけど!」
私は彼に好かれたくて一生懸命努力したの。なんの努力もしないで彼の心を手に入れていたのに、それに気付かない鈍感委員長ーーもったいないじゃない!
「それなら私の言う通りにしなさい。私が委員長を変えてあげる。きっとこれからは春が好きになれるよ」
目を瞬かせる委員長は、きっと例えるならダイヤの原石。でも王子様が磨きあげるとは限らないでしょ?
こんな気持ちになったのはいつ以来かしら。他人のことなのに、不思議と胸が熱くなるのを感じた。
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