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 春香(はるか)はたくさんのコスメが並ぶ棚と睨めっこをしていた。オレンジ系、ブラウン系のアイシャドウを手に取り、隣に立ち尽くしている椿の目元に当てていく。  先ほど椿のパーソナルカラーを調べてもらったところ、イエロー系の肌だと診断されたため、それに合うものを探していたのだ。 「これからイメチェンをするにあたり、委員長に聞いておきたいことがあるんだけど」 「な、何でしょう?」 「どんな自分になりたい? イメージとかある?」  すると椿は唇をキュッと結び、困ったように視線をキョロキョロさせる。店内に貼られているポスターを見ながら、思い描く新しい自分の姿を探しているようだった。 「こんな感じとか……どうかな?」  椿が指差したのは、シックなブラウンメイクをしたモデルのポスターだった。 「あの……無理はしたくないかなって……。今の自分に近いけど、なんていうか、少し大人っぽいのが理想かな……。ほら、私って明るくもないから今更そういうふうになるのは無理だし。可愛いのはもっとイメージに合わないじゃない?」  また逃げてるーーそう言いかけて、春香は口を閉じた。私は明るい自分になろうとして、笑顔の練習をたくさんしたし、誰とでも会話ができるように、いろいろな情報を頭に入れた。  そうして出来上がった"佐倉春香"は今も現役で、今はこの"佐倉春香"じゃないと受け入れてもらえないような気すらしている。  手の中のアイシャドウを見ながら、どこか虚しい気持ちになっていく。  逃げているのは自分の方かもしれないーーだって今更本当の自分を知られることを、こんなにも怖がっているのだから。  きっと委員長は逃げてるんじゃなくて、自分自身を守っているだけなのではないか。周りに染まらず、自分が自分でいるための自己防衛なのかもしれない。
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