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薄いベージュのニットを手に取り、椿の胸元に当てながら、春香はにっこり笑って首を傾げる。
「委員長、そろそろ髪の色を変えない?」
「嫌」
「えーっ、明るい色にしたら絶対可愛いと思うのにー」
「可愛さは求めてないし」
「でも変わりたいんでしょ? すっごく変わるよー」
今日は白いTシャツにロングスカートだか、前だけTシャツの裾をしまったり、少しずつ変化が見えている。
春香のアドバイスを受けながら、椿は髪をお団子にし、きちんとメイクもするようになったが、髪色だけは頑なにに変えようとはしなかった。
でも春香の中では、いつか椿が変えると言い出すような気がしていたから、あえて無理強いはせず、ちょこっと口は挟むけど、彼女から言い出すのを待つことにしていた。
一度にたくさんのことを変えたら、きっといっぱいいっぱいになっちゃうはず。それなら一つの変化を受け入れながら、ゆっくり進んでいったっていいはず。
「ねぇ、このテラコッタのスカート、委員長に似合う気がする」
「……うん、これくらいの色ならたぶん挑戦出来る気がする」
「でしょ? なんか委員長の好みとかがわかってきた気がする!」
「うーん、佐倉さんの提案してくれるものって確かに受け入れやすいんだよね。ツボをついてくれるというか。そういうのってすごい能力だと思うから、絶対にどこかで活かした方がいいって」
椿の言葉を聞いて、春香は思わず下を向いた。あまりに嬉しくて照れてしまったのだ。
「佐倉さん? どうかした?」
「ん? ううん、なんでもなーい!」
きっとこういうのを求めていたんだと思う。私の欲しい言葉をくれて、承認欲求を満たしてくれるのは委員長だけなのかもしれない。
その時だった。
「あれー? 春香ちゃん?」
店の外の通路からこちらを見ていた人物に目をやると、いつもの大学でのメンバーが驚いたように立っていた。
「うわぁ、偶然! 何してるの?」
店にいるのに、そんな質問はおかしいだろうと思いながら、春香は友人たちに手を振った。
「みんなこそどうしたの?」
友人たちの目が椿に向いたことに気付いて、慌てて声をかける。
「この上のお店に行く途中。まさか春香がいるとは思わなかったからびっくりした」
「そうだったんだー。私もいきなり声をかけられたからびっくりしちゃったよー」
間髪を入れずに春香は返答をする。表現はおかしいかもしれないが、委員長を友人たちの目から守りたいと思ってしまったのだ。しかしそれが逆に友人たちの興味をひいてしまった。
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