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「そちらの方は?」
友人の一人が椿に声をかけた。しかし椿はいつもと同じ様子で、
「近藤です。佐倉さんとは高校時代の友人です」
と答えたのだ。
「なんかちょっと意外だねー。春香ちゃんにこんなお友達がいるとは思わなかったよ」
こんなーー? それは一体どういう意味だろうか。春香の唇の端がピクッと引き攣った。
「すごく頭が良さそうですよねぇ」
「はぁ、どうも」
物珍しそうに椿を見る目が、自分のことではないのに、なんとなく居心地が悪く感じた。
「あぁ、わかった! 勉強ばかりしてきたから、ファッションとかメイクとか、あまり努力してこなかった感じ? だから春香ちゃんが教えてあげていたりするんでしよ。だから最近メイクだなんだって頑張ってたんだー。優しいっていうか、なんか漫画みたいだね!」
どうしてだろう。こんなに胸がギリギリと締め付けられる。お願いだから委員長を傷つけるようなことを言わないでーーと心の底から思った。
入学してから声をかけられ、普段大学にいる時は一緒にいる同じ学部の友人。二年半も近くで過ごしてきたが、今初めて友人たちの言動に怒りを覚えた。
「……努力って何?」
これほど低い声を出すのは初めてだった。それは友人達も同じだったのか、その場にいた全員が驚いて目を見開いた。
「努力をしてこなかった? それって何に対しての努力?」
「は、春香ちゃん……? どうしたの?」
「努力なんて人それぞれでしょ? 確かに私がしてきたような努力を委員長はしてこなかったかもしれない。でも委員長みたいな努力を私だってしてこなかったの。委員長は遊ぶ間だって惜しんで勉強して、国立の大学に入ってるし、今だって世界遺産を巡るために、一生懸命アルバイトに励んでるの。夢を持って頑張って努力する委員長に、何も知らないくせに『努力してこなかった』って軽く言わないで!」
堰を切ったように話し出した春香の姿に、全員が口を閉ざした。
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