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ふと春香の頭の中に、再会した時の様子が思い出されていく。そして彼女は春香にこう言った。
『佐倉さんみたいに自信なんかない』
春香を羨ましいと思いながら、好きだった人への気持ちを伝えようとせずに逃げたことを認め、地味だから何も出来なかったと自分を卑下した。
今の自分を変えようとせず、何もかも諦めると言った彼女に、また逃げるのかと言ったこともあった。
だが今になって、そうさせたのは自分だと気付く。そんなふうに思ってはいなくても、そう感じるように仕向けてしまったのかもしれない。
自分の経験でしか物事を考えられなくて、何も知らないのに人の努力を平気で見下すーー なんてちっぽけで最低でズルい人間だろう。人を見下すことで、自分の自信を保っていたんだ。
全員が言葉を失った中、椿がため息をついてから口を開いた。
「……まぁ確かに頭の勉強ばかりで、外見の勉強はしてきませんでしたね。おかげで今は佐倉さんに頼りっぱなしです」
「委員長……」
「それに、私は勉強に励んだ時間を後悔していません。好きなことを好きなだけ頑張って、結果はどうあれ、頑張ったことは消えることはないですからね」
それから椿は友人たちの顔を順番に見てから、ニヤッと笑みを浮かべる。
「あなた、佐倉さんの友達なのに、彼女がメイクを頑張る理由を知らないんですか?」
「えっ……」
「まさか本気で私のためって、本気で思っているんですか?」
椿の言葉に、その場の全員が下を向いた。
「私は知っていますよ。目の前であんなに夢に向かって頑張る姿を見ていたら、何があったのかって理由を聞きたくなりませんか? 憶測じゃなくてちゃんと生の声を聞いて、そのことを共有したいって、友達なら思いませんか?」
春香は涙が出そうになるのを堪えた。本当にその通りだったからだ。
誰にも興味を持たれないし、友人たちは自分のことばかり。それが何より残念だった。
すると友人の一人が顔を上げ、眉根を寄せながら春香に微笑みかける。
「あの……今度メイクのこと、教えてくれる?」
あぁ、やっと私自身に興味を示してくれたーー春香は心からそう思った。
それから友人たちが店に向かうのを見送っていたが、
「ねぇ、春香ちゃん。このスカートってどう思う?」
という声を聞いて、勢いよく椿の方に向き直る。
背を向けているのに、椿の真っ赤になった耳が目に入って、思わず吹き出してしまった。嬉しくなって、思わず椿の背後から抱きついてしまう。
「なになにー? もう一回言ってみてよ、椿ちゃーん」
「……ありがとうって言っただけ!」
二人は顔を合わせ、大きな声で笑い合う。いつの間にか二人はこんなに"友達"になっていたことに気付いた瞬間だった。
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