紗菜ちゃんの中の人と落とし物

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「ダメだ、ここにはいない」  ぼそりと佐々木くんが呟く。 「ここにはいない?」  どういうことなんだろう? 幽霊が居ないってこと? 「完全には彼女に入ってない。記憶の欠片みたいなものだ」  私が聞いても佐々木くんは難しく答えるだけだった。 「あの、もうちょっと分かりやすく説明――」 「時間だ。今日はもう帰る」 「ちょ、ちょっと!」  人の言葉を遮って病室から出て行っちゃうって、どういうこと? 「ごめんなさい、紗菜ちゃんのママ。またお見舞いに来ます」  私はぺこっと頭を下げたけれど、紗菜ちゃんのママは不思議そうな顔で、去っていく私たちのことをずっと見ていた。  気まずい気持ちになりながらも、私は急いで佐々木くんに追いついた。
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