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「しっ、颯ちゃん、聞こえちゃうよ」
「へいへい」と颯太は退屈そうにキャットウォーク越しに見える青い空を見上げた。
二分の一成人式をするにあたり、「私の歴史」と題して、これまでの自分の人生をまとめるという授業が行われた。同級生たちは皆、生まれた時、一歳、二歳・・・と、十歳までの十一枚の写真を家から持ってきて、教室内は大いに盛り上がった。けれど、颯太はその輪に入らなかった。
自らの十年を振り返れば、いやでもその途中にある両親の死。
結局、颯太の「私の歴史」が完成することはなかった。
空の向こうに両親がいるのだと、誰かに言われたことがある気がするが、誰に言われたかも思い出せなければ、到底そんな風にも思えなかった。
ただ、颯太の前からいなくなった。
颯太にとってはそれが全てで、一番重要なことだった。
「颯ちゃん、颯ちゃんってばっ」
再び隣の楽に突かれてしかめっ面をする。
「あ?なんだよ」
「颯ちゃんの番っ、台詞っ」
「え?」
気付けば、呼びかけがすっかり止まり、村井先生のピアノは颯太の台詞を促すように同じメロディを繰り返している。
「やべ・・・えぇ・・・と・・・」
「爺ちゃん、ありがとうだよ」
楽のナイスアシストに親指をたてつつ、颯太は叫ぶ。
「爺ちゃ~ん、ありがとう!」
「おうよっ」
間髪入れずに返された返事は、保護者席からだった。
「颯太っ!あっぱれっ!流石は俺の孫じゃねぇかぁ!」
保護者席のど真ん中、紋付き袴姿で両手に持った日の丸扇を、ブンブンと振り回しているのは、まぎれもなく颯太の祖父、巽重次郎だった。
「じっ爺ちゃんっ」
颯太は目を見開いた。
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