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「ネックレスに・・・なった・・・」
ポカンとした表情のまま顔を見合わせる三人組。
その脳裏に浮かぶのは、希甫の二ッと笑う顔だった。
「これ・・・持ってろってことだよね?」
「希甫さんって、ほんとに凄い人かも・・・」
「まぁ、それなら持っててやっか!」
三人は白い歯を見せて笑い合うと、服の中にキジムナーをしまう。
「こらー、そこの三人組―っ!チャイムなってるぞーっ、走れーっ」
向こうに見える校門の前で、学年主任の坂本先生が叫んでいる。
「やばい、遅刻しちゃうよ」
「走れ、颯太、楽」
「おうよっ!」
三人は校門に向かって走りだした。
東京の端っこのそのまた端っこ。
石でも投げようものなら、その石は埼玉県に着地する。
散歩をしても、いくらも歩かないうちに東京を脱出してしまう。
取り分けた田舎感もないが、煌びやかな都会の雰囲気もない。
そんな場所に一体いつから建っているのかわからない、平屋建ての古民家。
古民家と言っても、最近カフェや宿泊施設なんかになって話題になっている様なおしゃれなものではない。
ただただ、古い。
裏庭には、少しの畑と、土蔵。
表玄関の引き戸には浅黄色の暖簾がかけられており、そこにはまるで新選組を髣髴させるかのような『骨董屋有閑堂』と白抜きの文字が風にひらひらと吹かれている。
有閑堂はずっとずぅーっと昔からそこにある。
近所の大人たちが子供だった頃には既にあり、爺ちゃん、婆ちゃんたちが子供だったころにもあったという。
客らしい客が来ているところを誰も見かけないのに、潰れることもなく有閑堂はずっと前からそこにあるのだ。
そんな有閑堂には、間もなく迎える春休みを心待ちにしている名物の三人組がいる。
向こうっ気は強いが、正義感に溢れ男気のある颯太。
弱虫で泣き虫だが、誰よりも優しく思いやりに溢れた楽。
どんな時も冷静沈着、小学生とは思えない程の頭脳の持ち主、廉。
やがて桜の花が咲くころには、三人組は五年生になる。
おしまい
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