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5
「お前達、互いの事を気にしすぎてる」
突然言われた一言。
気心知れた人から言われた言葉。曖昧な言い方だったけど、心当たりがある僕達は何も言い返せなかった。
隣であなたの顔が曇る。嫌な予感が胸を占めた。
確かに僕は、あなたと心が通ったことで浮き足立ってたかも知れない。
でも………
………これで二人の想いを諦めることはしないで
願いがあなたに届くように、必死で念じていたのに………
あなたは、いつもにまして夜遅くまで部屋に戻らなくなった。
僕との時間を、あえて減らしているように……
僕には、それが不安で仕方ない。
ある日、とうとうその不安が溢れだした。
その日も僕を避けるように、部屋に帰る様子を見せないあなた。
「まだ帰らないの?一緒に帰ろうよ」
「もう少しだけ………お前は先に帰っていいから」
「………わざとだよね」
「…………」
「僕を避けてる」
「避けてなんてない……ただ……今は大事な時だろう……」
「………僕達のことより、大事なことなんてない」
言い切った僕に、あなたが初めて背を向けた。
「…………少し大人にならなきゃ」
「大人って………」
続く言葉が出ずに、あなたの横を通って外に出た。
いつの間にか降っていた冷たい雨が地面を濡らしている。僕は気にせず歩き出す。
夢の為にあなたとの事を我慢するのが大人になることなら、僕は大人になんてなりたくない………
濡れた身体は急速に冷えていく。
歩くことしか出来ない僕は、気がつくと知らない場所に一人で立っていた。
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