告白します。 【小形裕也】

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 夏。 「あぢぃ~…」 「あ、来た来た」  うちわを仰ぎながらまだ来ない男を待ち続けること十五分。涼しげな麦藁の中折れハットを被り、サラサラの直毛を靡かせ、すらっと姿勢のいい細身の男がこちらに闊歩してくる。 「遅ぇよ、西! 走れよ!」  その余裕ぶり。思わず叫んでしまった。だがもちろん奴が走るわけはない。 「遅刻はしてないはずだが」  集合時間三十秒前。 「アホか! こういうのは十分前集合なの!」  ハットのツバをピンと指で弾くと、西は仏頂面でそれを直した。  目の前で待ってくれているバス。すでにエッグの乗り込んだバスは数台、先に発車している。エッグ達もそうだが、決められたメンバーが全員揃わなければバスに乗ってはいけないシステムになっている。  表向きは点呼の無駄を省くためだと言われているが、このシステムを考えたのは雪村さんだと聞いたことがある。  人を外で待たせていると思うと遅刻する奴は減るだろう、と彼が言い出したのだとか。あの人らしい提案すぎて笑えるが、どこまで本当の話かは分からない。  まぁ、とにかく。おかげで俺たちは時間ギリギリまで炎天下の下、待ち惚けを食らっていたわけである。  ようやくクーラーの効いた涼しいバスの中に入り、車内前方に座っている数名のエッグ達と改めて挨拶を交わす。本日初見となる西にはエッグ達からの爽やかで丁寧な挨拶が投げかけられている。その挨拶から抜け出し、バス後方に向かう最中颯太が呆れたような声を出した。 「モーニングコールしたよね、僕?」 「あぁ」  西の返事はまるで王様か何かのようだ。モーニングコールをもらっておきながら、ありがとうの一つもなしか? ってか颯太。お前、西からモーニングコールしろって言われてるのか? それに応じてる颯太も颯太で優しすぎんだろ。それなら俺にもくれ、そのモーニングコール。 「何してたらこんな時間になるんだよ」  颯太の口振りから想像するに、きっとかなり早い時間にモーニングコールをしたのだろう。 「歯磨きに三十分は掛かるからな」 「潔癖かよ。お前の口内無菌状態か、馬鹿野郎」  一列に並んで席を目指すその一番後ろから、加藤(親友)の鋭いツッコミが炸裂した。  加藤亮介。又の名をカトゥン。うちのメインボーカルだ。事務所内歌うまランキングでも、TOP3に入り込むくらいの実力がある。もっともそんなランキングはないけど。 「電動歯ブラシにしたらいいじゃん」  俺がそう提案すると、すぐ後ろで西は小馬鹿にしたような笑いをこぼした。 「手磨きの方が楽しいだろ」 「……………」  全員が呆れて黙り込む。そして無言を貫いていたリーダーが一言。 「なんも楽しくねぇよ」  痛烈です、玲くん。
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