【3章】東風

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 電話を掛けてくる人間たちは皆、ひどく思い詰めて暗く沈んだ声をしていた。  ある者は仕事が見つからず家族に見放され、ある者は学校でいじめに遭い不登校に、本当に様々な人間から電話が掛かってくる。  プログラムには、"落ち込んでいる人を下手に刺激してはいけない"や"励ましが逆効果になる場合もあるので言葉選びは慎重に"とありとあらゆる注意事項が含まれていた。  結局何を話しても相手を刺激してしまいそうで、当たり障りのない話題を選ぶとなると自ずと『お天気』の話題となる。  最初は「今日はいい天気ですね」と誰に対しても穏やかな口調で伝えていたが、「外は土砂降りの雨だ、嫌味なのか?!」と怒鳴られた事があり、これでは駄目なのだと学んだ。  それからは、ありとあらゆる地域の気象情報について情報収集をして、電話口の相手が住む地域は今現在どんな天候なのか直ぐに分かるように努めた。  そうしているうちに"天気"について興味が湧き、学ぶことが楽しくなってしまった。
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