【3章】東風

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「そちらの地域では、このあと18時から急な雷雨が降りますよ」  電話の相手にそう告げると、相手は急に黙り込んだ。  しまった、余計な事を言ってしまったかもしれない。  このときの通話の相手は不登校の男子高校生、角脇淳だった。  暫し間が空いて、彼はぼそっと呟いた。 『今、凄い晴れてるけど』  私は反応が返ってきたことが嬉しくて、つい気象庁が発表している情報を、私の意見も交えながら事細かに彼に伝えた。 『……そう、なんだ』  掛かってきたときと変わらない暗い声でそう言うと、彼はぷつりと通話を切ってしまった。  完全に、やってしまった。  出過ぎた真似というやつだ。  私は頭を抱えてデスクに突っ伏したが、間髪入れずに次の電話の着信音が鳴り響く。  "当たり障りのない日常会話"程度に抑えておかなければ、私の存在はこの人達にとって、ふかふかに柔らかいビーズクッションと同じ。  受け入れるということだけに、専念せねば。 「はいっ、こころをつなぐ電話相談室の東風がお受けいたします」
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