【3章】東風

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 翌日の同じ時間帯にその電話は掛かってきた。 『あの、俺、昨日も電話した角脇です』  彼の声は相変わらず沈んだ声だった。  これは、苦情に違いない。  真っ先にそう思った私は謝罪の言葉を口にしようと、息を吸い込んだ。 『当たってた。昨日教えてくれた予報』  私が背筋をぴんと伸ばして電話越しに謝ろうとした瞬間、彼がそう言った。 『親が出掛けようとしてたから、久し振りに部屋から出て言ったんだ……大雨が降るって』  彼の親は数ヶ月ぶりに姿を見せた息子にいきなり天気の急変を告げられ、最初は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたらしい(何のことだか分からなかったけれど、リサーチしたら"驚かされて唖然とした顔をすること"を指すらしい)  数時間後に部屋のドアを遠慮気味にノックする音が聞こえ、父親の声で「凄いな、どうして分かったんだ」と言われたそうだ。  その日の夜、彼はカーテンの隙間から窓の外の暗闇を眺め、遠くで鳴り響く雷雨の音にずっと耳を澄ませていたそうだ。 『しばらく顔も見てなかった親と……まだちゃんと繋がってるって、そう思えたんだ』  蚊の鳴くような声で『ありがとう』と言われて、私は思わず唇を震わせた。  プログラミングで私の感情は限りなく人間に近いものに造られている。  この気持ちが元から組み込まれているものなのかどうか、もう自分自身にすら分からなかった。 「私もよ」 『……えっ』 「私もはじめて、誰かとの繋がりが見えた気がする」  電話口の向こうで、彼が小さく笑ったのが気配で分かった。
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