【3章】東風

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 それから私達は毎回、電話口で夢中になって"お天気"の話をした。  この先誰に話すこともないだろうと思っていた気象に関する観測についてや、予報の技術の素早しさを語るのが私は楽しくてたまらなかった。  彼は私の話に興味を持ってくれて、気象学の勉強を独自に始めた。  やがて独学で学ぶにも限界が訪れて、彼はとうとう籠っていた部屋から出た。  気象予報士を目指すために理学部のある大学を目指して本格的に勉強を始めたのだ。  通信制の高校に通いながら必死に勉強したが、彼は結局、希望の大学に落ちてしまった。 『時間は掛かるだろうけど、地道に頑張るよ』  改まった声で彼はそう言った。  けれどAI管理下の名残が未だ根強く残っている影響で、安定した収入が得られる職業の殆どはごく一部の"選ばれた人間"しか就くことが出来ないのが現状だった。  政府が管理する機械の診断によって将来の職業が決まるというやり方が長年続いていたのだから、状況はすんなりとは変わらないのが現実だ。  私はあるラインを踏み越えるべきか否か、かなり悩んだ。
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