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『もう生きていたくない。だから聴いていてほしいの』
その日、連絡してきた中学生の女の子はそう告げるとカチカチと音を鳴らした。
カッターの刃を出す音だと分かった。
息を乱す彼女の呼吸を聞きながら、私は口を開いた。
「……本当は、誰にも諦めてほしくない」
受話器を握り締めて、はっきりとした口調で言った。
「まだ可能性はあるって証明してみせるから、だからまだ死なないで」
『可能性って……?』
か細く頼りない声で彼女が呟く。
「この世界は変われるって可能性」
私はデスクにあるパソコンを操作して、会社がシステム上に隠し持っている多額の仮想通貨を、今まで電話を掛けてきた人達の元へと分配した。
通話中の彼女の腕時計の通知音が鳴る。
『えっ、なにこれ』
動揺した様子の彼女を他所に、私は残った分を全て角脇淳の元へと送金した。
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