【4章】DK

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【4章】DK

*** 『その時のお金を使って、二人でこのお天気アプリを開発したんです』  パソコンの画面越しに、東風は弾む声でそう言った。  警察署内に戻り、清掃用ロボットが教えてくれた番号に連絡すると、思いの外あっさりと彼女が通話に出たので私と嶋田は拍子抜けしてしまったのだった。  画面に映る角脇淳は派手な柄のアロハシャツを身に纏い、何だかそわそわと恥ずかしそうにしていた。 『東風に誘われた時、すっかり舞い上がって二つ返事で海外まで飛んじゃったから……まさかこんな大事(おおごと)になってると思わなくて』  『こんな陽気なシャツ着ててすみません』と彼は肩をすくめる。 「せめてご両親にはきっちり説明してからにして貰わないと」 『成功を収めて有名になったら言おうと思ってたんです』 「なんでそんな自信満々でいられるのか……」  眉間を押さえて顰めっ面する私の横で、嶋田がにんまりと笑ってみせる。 「愛はパワーってやつやね」  何言ってんだコイツという顔で相棒を見遣ってから、画面に視線を戻す。 「じゃあ、部屋に残してあった"DK"の文字は彼を攫うという犯行声明だったんですね」 『えっ、違いますよ』  東風の声がスピーカーから聞こえて、私は椅子に座ったまま腕組みをする。 『あれは"デジタル駆け落ち"の略です』 「駆け落ちの……Kなんだ……」 「もはや、英単語ですらないんや……」  半ば呆れたような声で呟く私達に構わず、東風は言葉を続けた。 『罪はきちんと償います、最初から覚悟はできていますから。でも彼は逮捕しないでください、私の犯行に巻き込まれたいわば被害者ですから』 『東風、そんな……俺は一度も巻き込まれたなんて思った事ないよ。俺が、君と一緒に選んだ道だって思ってる』 「あー、はいはい、そこまで」  私はずいっと液晶画面に向かって掌を突き出す。 「訴えると言い出した会社の代表は逮捕されたうえ、誘拐ではなく駆け落ちだったとなれば、我々警察がすべきことはもうありません」 『えっ』 「デジタル駆け落ち、なんでしょう」  私が言うと、画面の向こうにいる角脇淳が綻ぶように笑った。 『はい』
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