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「コチはそれまで特に問題も起こさず、正常に機能していました」
「コチ……?」
「東から吹く風とかいて東風、我々が開発したAIの名称です。春に吹く風の名を付けました」
それを聞いた途端に嶋田がちらちらと私の横顔に視線を投げかける。
「問い合わせの中には無不尽なクレームや脅迫まがいのものもありました、おそらく東風はそれに嫌気がさしてシステムから抜け出したんでしょう」
「AIなのに、ストレスを?」
「様々な事態に対処できるように独自の学習能力を身に付けさせていたんです、それが悪い方向へと導いたのだと思います」
聞き込みに応じてくれた企業の社員は、そう話しながら落ち着かない様子で自分の喉元をさすった。
賢くなりすぎたが為に、ストレスの影響を受けて暴走したというのか。
「皮肉なもんやなぁ」
「……」
「あ、石橋さん、今ちょっと俺のこと馬鹿にしましたよね?」
鼻の穴を膨らませて文句を言う嶋田を無視して話を続ける。
「行方におぼえはありませんか?」
「ええ、残念ながら。システム内は隈なく探しましたが見当たりませんでした」
「そうですか」
私は手に持っている小さな手帳を閉じた。
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