【1章】AIの失踪

5/5
前へ
/17ページ
次へ
 時代の最先端をいく企業は受付から駐車係に至るまで、全てをロボットで賄っている。  自分達の持つ技術をひけらかしているかのようだ。  車に乗り込んだ途端に嶋田が言う。 「東風(こち)のK、ってことはありませんかね」 「そんなに安直ではないでしょ」 「そうですよね」  嶋田は苦笑しながら肩をすくめてみせる。  車は静かに走り出し、地下駐車場を抜け出した。 「けど、なんや不思議ですよね」 「何が?」 「こんなに技術は進んでるのに、電話っちゅう古典的なモンが今でも残っているのが」  私はハンドルを握ったまま答える。 「"声"で伝えたいっていう欲求がいまだに根強いからだと思う。文字でダラダラと嫌味を書き連ねるよりも、直接怒声を浴びせる方が気が晴れるんじゃないの、多分」 「……人間、ほんまに怖いわぁ」  助手席の背もたれに肩を沈めながら嶋田がぼやく。 「石橋さん、俺のこと署まで送り届けたらもうこのまま直帰してください」 「え、何言ってんの。私も一緒に戻るよ」 「今日くらい早めに帰った方がええですよ。台風も近づいて来てるらしいし」  腕時計型の携帯でお天気アプリを起動しながら言う嶋田に、私はにやりと笑い掛けた。 「調べたいものがある」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加