【2章】手掛かり

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「ミイラ、か」  エレベーターの中で私が小声で呟くと、嶋田がこちらを向く。 「どないしたんですか」 「なんだか、誰も報われないなと思って」  頭上の階数表示を見上げながら、嶋田は静かな口調で言った。 「あんなに親身になって相談者の話聞いとった東風が、自我が芽生えた途端に金の横領して消えるなんて……なんや虚しい気分になりますよね」 「そうだね」  互いに黙り込んで正面を向いていると、狭い空間に着信音が鳴り響いた。 「本田さんからだ」  刑事仲間の名前が表示されているのを見て、通話ボタンをタップする。 『おー、石橋。俺に感謝しろよぉ』 「いきなり何ですか、先輩」 『例の"いのちをすくう電話相談室"なんだけどな』 「正確には"こころをつなぐ"ですけど」 『相談の電話掛けてきた奴の中に、ひとり行方不明になってる奴がいんだよ。なんか怪しくねぇか、コレ』  本田さんが言い終わるや否や、軽快な音を立ててエレベーターが地下駐車場に到着した事を知らせる。 「……DK」 「なんですか」  恐る恐るという様子で隣に立つ嶋田が聞き返す。 「もしKが"kidnap"だったら」 「何て意味ですか」 「"誘拐する"」  嶋田の表情が強張っていく。 「東の風って……日本では春の訪れを告げる風っちゅう意味ですけど、英国では嵐の前触れの不吉な予感を表すんです」  目の前でゆっくりと閉まり掛けているエレベーターの扉に両手を掛けてこじ開けると、私と嶋田は勢い良く駐車場へと走り出た。 「車どこに停めたんでしたっけ?!」 「ああ、もう、広すぎて分からない!」  タイミングよく通りかかった駐車係のロボットが私たちの前で停止する。 『車をお探しでしたらご案内します』  液晶画面に表示されたつぶらな瞳が、ぱちりとウインクをする。 『ちなみに東風の居場所も案内できます』
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