THE BODY

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 ダンはピックアップトラックで町を走らせていた。ウィンドウから見えるのは荒涼とした大地と、木造づくりの古びた家屋、その半分は廃屋になっていて窓ガラスが割れていた。  ダンが生まれ育ったBODYは、ユタ州の砂漠地帯に位置する人口三百人余りの小さな町だった。今は過疎地だが、一八〇〇年代にはゴールドラッシュの好景気に沸いていた。荒れ地に一万人が押し寄せ、幾つものバーや遊技場が立ち並び、このボディという町は形成された。  だが、二十世紀に入ると金が掘り付くされ、仕事を求めた住民達は次々と町を離れていった。そして、三十年代に起こったハリケーン被害が決定打となり、この町は過疎地と化してしまった。  大通りを数キロ行った先に、テオ・ギリアムが経営する火葬場の事務所があった。簡素な一階建てで、玄関には星条旗が飾られていた。ダンは事務所の駐車場にトラックを停車させた。 「今日は四体だ」テオはそう言って、ダンを出迎えた。デスクが置かれた事務室があり、隣の部屋に冷房を効かせた遺体の安置所があった。「こうもホットだと死体が腐れるな」 「ホットなのは女の子だけで十分だ」ダンはそう言って笑った。     テオ・ギリアムはダン達が働いている火葬場のオーナーで、子供の頃から永い付き合いがあった。火葬場が何十軒と立ち並ぶボディでは大手の会社だった。  四つの棺桶をストレッチャーで外まで移動させ、トラックの荷台に押し込む。ロープで固定した後に、ダンは車に乗り込んだ。 「ガイとザックに宜しくな」とテオは言って、手を振った。  事務所に戻るテオの後姿を眺めながら、ダンは煙草を咥えた。金を掘り尽くしたボディは、新たな産業として火葬場経営を始めた。州内外の低所得者に向け、格安で遺体を火葬にし、遺灰を骨壺に入れて送り返すというビジネスだった。この産業のお陰で財政は潤い、町には次々と新たな火葬場が作られた。雇用は火葬場に完全に依存しており、生活をする為にはそこで働く以外の選択肢は無かった。  ダンは煙草に火を点けた。道の向こうにはなだらかな丘があり、その先端に石造りの塔が建っているのが見えた。ゴールドラッシュの時代に建てられた大鐘楼。その昔、ハリケーンから逃げてきた人々が塔に避難し、難を逃れたという逸話があった。  ダンは煙草を消し、アクセルを踏みつけて駐車場から出発した。
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