THE BODY

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THE BODY

 火葬炉からは皮膚が焼ける音、血が蒸発する音、収縮した体が動き回る音が聞こえた。肉と脂肪が溶ける匂いが室内に充満する。死体を焼き尽くす赤い炎はまるで、悪魔の舌のようだった。 「誰か、音楽をかけてくれよ」  ダンは、制御盤で二番炉の調整をしながらそう言った。 「ザック、そこにあるラジカセで何か音楽を掛けてくれ」  ガイはコークを飲みながら、作業台で粉砕機の調整をしているザックにそう呼び掛けた。  ザックは作業台に置いてあるラジカセを手に取り、つまみを回して周波数を合わせた。  スピーカーから聞こえてきたのは、六十年代にヒットした“夢のカリフォルニア”という曲だった。イントロに流れるフォークギターの音色、曲調はポップで明るいが、秋の夜長のような哀愁を帯びている。四人の男女がサビで歌っている。“こんな冬の日には、カリフォルニアを夢見る”と。 「この歌の主人公はカリフォルニアに憧れるばかりで、ついには辿り着けなかった」ガイはそう言い、愉快気に笑った。 「陰気な歌だよ」ダンは腕時計を確認し、一番炉を止めてから一時間が経っている事を確認した。「そろそろ、冷めてる頃だな」  ダンは一番炉のシャッターを上げ、取っ手を持って台を手前に引き出した。そこには遺灰と、燃え残った大腿骨や頭蓋骨の一部が広がっていた。ダンは塵取りで骨を集めると、ミキサーのような粉砕機に投入した。  細かくなった遺灰をステンレス製の骨壺に移し、個人識別用のタブを取り付ける。 「こんな夏の暑い日には、カリフォルニアを夢見るよ」ガイはそう言い、額から溢れ出した汗を拭った。「西海岸も暑いだろうけど、こんな“死体町”よりはマシだな」 「確かに、この町はボディじゃなくて、BODY(死体)だな」ダンは言い、入り口横に詰まれた棺桶に目をやった。安い板材を貼り合わせた粗雑な作りで、窓も無かった。「誰が、好き好んでこんなゴーストタウンに住むよ」  頭の中で曲がリフレインした。カリフォルニアに憧れるばかりで辿り着けなかった男の歌。それは、まるでこのボディという町に縛り付けられた自分達の事のようだった。
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