6人が本棚に入れています
本棚に追加
火葬場に戻り、ダン達は棺桶を壁に積み上げていった。昼になって気温も上昇し、火葬場内は四十度もの暑さになっていた。
「何が悲しくて、こんなきつい仕事をしなきゃならないんだ」
ガイはそう言って、不満げに顔を歪めた。
「仕事にあり付けただけでもラッキーだろ」
ダンはそう言って、肩を竦めた。
ガイは息巻いた。「お前達はこの町を出たいと思った事は無いのか?」
「そりゃ、出たいさ」ダンは額に浮かんだ汗を拭った。「でも、俺には病気の母親が居る」
この町から、何度逃げ出したいと思ったか分からない。だが、それを考える度に、女手一つで育ててくれた母が思い出された。元々病弱だったが、数年前から体を悪くし、ベッドに寝たきりになっていた。母はこの町で生まれ、この町で育った。今更、別の場所へ移る事など出来ようもなかった。
「お前だって、年老いた婆ちゃんが居るだろ?」
ガイは幼い頃に両親が離婚し、母方の祖母に育てられた。その祖母も歳を取り、近頃では認知機能にも衰えが出始めていた。
「ザック、お前はどうなんだ?」ガイはそう聞いた。
その問いにザックは沈黙した。彼は十六歳の時に両親を相次いで亡くし、生活の為に火葬技師となった。ザックが町を出て行かないのは単純に、ダンとガイが出て行かないからだった。
「もうこの話は止めよう」ダンはそう言って話題を変えた。「それより、遺体を早く焼いちまおうぜ」
棺桶を持ち上げて台に移そうとした時、汗で滑って手を放してしまった。バランスを崩した棺桶は三人の足元へ落下した。板が割れる音が響き、蓋の一部に大きな穴が開いた。
「安い板材使ってるからこうなるんだ」ガイは苛立ったようにそう言った。
ダンは棺桶を引き起こした。板材が割れ、ぱっくりと大きな穴が開いている。中から覗いていたのは土気色の死体の右手。だが、奥にそれとは別の何かが見えた。
「おい、マジかよ」ダンは息を吸い込んだ。「右手が二本ある」
最初のコメントを投稿しよう!