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「これで全員倒したか。全く王の墓を荒らすとは命知らずだな」
男は斧を横に置き座り込むと悲惨な光景を前に一息ついた。すると斧がひとりでに動き出すと宙に浮き赤く輝き出した。
「な!?どうした」
そして激しい光の波動を放つと辺りの死体が浮き上がる。死体の傷からスルリスルリと赤い毛糸のように血が斧に集まるとスーッと血が斧に吸い込まれる。
「何やってんだ、それ」
「我は血を集めると力が強大になる」
数分間、斧は死体から血を吸い取った。男は宙に浮く斧をボーっと眺めていた。
「・・・我は、守らなければならない」
「なにをだ?」
ゆったりと交わされる会話、そして少し会話に間が空いた。
「この王国を・・・」
その声色からは静かだが少しの怒りと決意が感じられた。その後なんとかロープを使い空洞から脱出し墓を見渡した。かつて存在した大国、その王が眠る谷にはボロボロだが風格ある石造りの建物が多く存在し、谷の入口には帝国のテントが何張りか建てられている。男は沈みゆく太陽を眺めた。
「さっき村人に聞いた話だと王国はとっくに滅んだんだろ。どうすんだよ」
「王国を復活させるのだ」
「・・・」
男は沈黙すると眉をひそめ俯くと歪んだ口を開ける。
「俺は今度こそ恨みや妬みや怒りなく暮らしたいな・・・可能なら」
「・・・もっと野心の高い男かと勘違いしていた」
男は顔を上げた服についたホコリをパタパタとはらう。
「まあ、王国を復活させるにも、平和にこの世界で暮らすにも情報が足りなすぎるな。俺もお前も」
「うむ、その意見には同感する。王国が滅んで長い年月が経っているらしいからのぉ。我の知識もこの時代では通用せぬかもしれぬ」
「色々なところを回って情報収集してからだな。ひとまず宿に戻ろう」
「そうするとしよう」
男は太陽のかけらに仄かに照らされながら宿へと歩き始めた。
その道中、男は薄暗い林道へと差し掛かった。枝が揺れ、葉が擦れる音が聞こえ林を抜ける風が髪を服をサラサラとなびかせる。しばらく行くと崖沿いの道に出る。そして、そこから近くの村の灯りが、ぼんやりと見える。
「もう少しだな」
と次の瞬間、背後でガサガサと茂みの音が聞こえた。瞬時に後ろを振り返るとそこには弓を構え、兜や皮の防具で武装した小汚い集団が居た。
「動くな・・・なるほど、なかなか高価そうな斧だな。そいつと有り金をよこせば命を助けてやるよ」
集団の中でも大柄な男が髭をいじりながら茂みから現れた。
「我に考えがある」
「なんだ」
「我をあの男に渡すのだ」
男は斧をベルトから引き抜き屈むと斧を盗賊の方に滑らせる。トレジャーハンターから奪った錆びた剣も地面に投げ捨てる。
「すみません。お金は持っていないんです。他の荷物も差し上げますので命たけは助けてください」
震えた声でそう訴える。男は我ながら素晴らしい演技力だなと心の中で思っていた。盗賊は斧の眼の前に来るとしゃがんで拾い上げる。
「ふっ、こんなにも素晴らしい斧を持っているのに腑抜けたやつよのぉ」
盗賊は荷物も拾い上げた。ニヤリと笑うと仲間に弓を下ろすよう指示する。盗賊たちは弓をおろした。と次の瞬間、男は素早く剣をひろうと盗賊の指揮官の首を抑え剣を首に近づける。
「!?」
盗賊たちは驚き慌てて弓を構える。
「武器を捨てろ!!さもなくば」
男は盗賊の首に剣を押し付ける。すると首からツーっと血がしたたる。
「おぬしら、この斧をうけとれ」
盗賊はそう言うと斧を味方の方に投げた。
「なに!?」
盗賊の仲間はその斧を拾い上げる。
「なっなんだ!?何故こんなことに」
すると盗賊の指揮官は叫びだす。
「動くな!殺すぞ」
そう言うとさらに剣を食い込ませると盗賊の指揮官は口から血を吹き出す。
「おっお前ら!俺を助けろぉ」
盗賊の指揮官が仲間へ助けを求める。そして盗賊たちは弓を引くと矢を放った。しかし矢は全発、指揮官に命中した。
「がっ!なっ!?なにぃ」
そして男は盗賊の頭を抑えると首を斬り裂いた。盗賊の首から大量の血が吹き出すと、その場に倒れた。そして盗賊たちはこちらへと歩いて来ると持っていた銀の斧を手渡した。
「戦力増強だな」
「そのようだな」
なんと盗賊たちの胸には大きな傷口が開いている。銀の斧が盗賊を操って倒していた。この力こそ「ネクロス王の死越斧」の力、死者を蘇らせ操る能力、一般にこの能力を使う者のことをネクロマンサーと呼ぶ。
「盗賊はフードやスカーフで顔を隠しているからアンデットとばれる可能性はないと思うが」
「ソナタの服装が大分目立っているな、この盗賊の指揮官から装備をいただくいてはどうだ。首がこんなに裂かれていては修復に多くの血を消費しなければならないからな」
「そうなのか」
男は指揮官から血を吸い出すと装備品や荷物を剥ぎ取り、それを装備した。薄汚れブカブカな格好だが元のオレンジの服よりは怪しまれることは無いだろう。
「うっうぐ」
「ん?」
急に斧が苦しそうにうなりだす。
「どうやら一気に4体も操るのは少々無理があったようじゃ、力が足りぬ」
「なるほどね。じゃあ、操れない分の死体は血を吸収して装備を剥ぎ取ろう」
その後2体を血を吸収して装備を剥ぎ取った。大分荷物は増えたが残りの2体に荷物を持ってもらうことにした。
「それにしても銀の派手な装飾がほどこされた斧ってのは、ちと目立ち過ぎだな。早急にどうにかしないと、また盗賊に目をつけられるし銀の斧を持った旅人なんて噂が広まったら何かと面倒だ」
「我の知っている時代では塗料が街で売買されていた。今はどうなっているか分からぬが」
「じゃあ、村で塗料についても聞くとしよう。それまで斧は服の中に隠しておく」
男は服の中に銀の斧を隠すと荷物を盗賊が持っていたリュックに詰め、操るアンデット2体とともに林道を村へと歩いていく。
「しかしアンデットを連れて行って大丈夫なのか?問題になったりして」
「そうじゃな、ならばもっと目立たない服を調達したいが我らには手持ちがないからの」
それから色々と会話をしながら歩き続け村へと到着した。村は木造の建物で崩れたりボロボロなものがあったりする。男はここまで歩き続けヘトヘトになっていた。まだ時間的に色々と店が開いているらしい。男はまず店で戦利品を売ることにした。
「とまれ!」
街を歩いていると突然、鍬を構えた大柄な村人が数人険しい表情で声をかけてきた。
「あんたら、なんだか怪しい格好をしているな。賊か・・・」
「いやいや、違う。私達は旅人だ。今、そこで盗賊に襲われ撃退したんだ。そして、その戦利品を換金したいし宿や食料を探している。村人に危害を加えるつもりは無い」
男は柔らかな対応で村人たちに無害なことをアピールした。村人たちはヒソヒソと話し合う。
「なるほど、分かった行っていいぞ。でも俺たちは常にお前達を見張っている。怪しい行動をしたら、すぐさま村から出て行ってもらうぞ」
構えていた鍬を下ろすと、のそのそと村人たちは険しい表情のまま去っていった。男はふぅと息をつくと店を探すことにした。しばらく村を歩いていると、他の建物よりは少し、しっかりした建物が目についた。建物には武器のマークと袋のマークが描かれている。多分ここで間違いないと男は思った。
「ちょいと、そこのハンサムさん」
すると、横に座り込んでいたフードの男が語りかけてきた。首から馬のネックレスをたらし、いかにも怪しい格好だ。
「アー様の好物をしっ、ているかい?」
なんだ、この男は狂ってるのか?と思った。さらに、その変な口調がさらにキモさに拍車をかけている。
「アー様はね、金の人参が、大好物なんだ!どうだい、キュートだろぉ」
なんだ、この不気味さは、と思い早急に離れることにした。
「どうだい、アー様のネックレス。買って行って、おくれよぉー」
なんとか不気味なフード男を追い払うと、ようやく店へたどり着いた。ギシギシと鳴るウッドポーチの階段を登ると、しっかりとした木のドアを開けるとドアベルがチリンチリンと、心地の良い音を鳴らした。店の中はきれいな棚が並んでいるが、商品は少ないようだ。
「いらっしゃいませ」
奥へ少し歩くと細身で白髮の老人がカウンター越しに深々とお辞儀をする。キョロキョロと店の中を見渡しながらカウンターへ歩み寄る。
「戦利品を買い取ってほしいのだが」
そう言うと背負っていたリュックを下ろす。そしてアンデットが背負っていた荷物も下ろしてあげた。老人はリュックを開けるとカチャカチャと戦利品を取り出すと叩いたり、虫眼鏡で観察する。老人はカウンターの下をガサゴソと漁ると中をくり抜いた木の板に小さい円柱が、くり抜かれた所に連なった物を取り出す。
「えーと取り引き額から2割を引いて状態を考慮して」
老人は木の円柱をくるくると回しながらブツブツとなにかを喋っている。
「はい出ました」
老人はカウンターの引き出しを開けると、きれいな皮袋を2つ取り出し、その中からコインを取り出すとカウンターの上に並べた。
「全部で飾り銀貨7枚、粗銀貨3枚、銅貨4枚、可銅貨3枚となります。」
男は貨幣の価値がさっぱり分からなかったが怪しまれないようコインをリュックに入れた。そして、リュックを持ち上げた。
「すみませんが質問してもいいですか」
「なんですかな?」
「この辺に安い宿はありませんか」
老人はカウンターの平べったい引き出しを開けると丸められた皮紙を取り出すと、くるくると紙を広げ指を指した。
「ここに宿がありますよ」
「あと、ここに塗料は売ってあるかい?」
「ええ、黄土の塗料がございますよ」
「なるほど、ではまた明日買い物に来ます」
「ありがとうございます」
老人はまた深々とお辞儀をする。そして男は店をあとにした。しばらく村を歩くと店主が言っていた宿屋が目についた。ボロボロで砂ぼこり、まみれだ。玄関まで、たどり着きギィーっと扉を開けると、そこは酒場になっており数人の客が食事をしたり会話をしている。そして、カウンターの店員に話しかけた。
「すみません、ここで安くで宿泊出来ると商店の店主から聞いたんだが」
「・・・」
店員に話しかけるが返事が無いし、どこか遠くを見ているような目をしている
「1人・・・飾り銀貨・・・2枚・・・」
男は店員の独特な話し方に「皿屋敷」を思い出し少し笑ってしまった。
「1人部屋でお願いする」
そしてカウンターの上に飾り銀貨を2枚乗せた。すると店員はスッと銀貨をテーブルの下へ下ろした。そして店員がカウンターのベルをチーンと鳴らすと二階から女性が降りてきて3人を部屋へ案内した。ガチャッと扉を開けると机とベットが置かれた7畳程の部屋だった。服に隠しておいた斧を机に置くとベットに座った。
「はぁー1日に二回も戦闘するなんてな。殺しなんて・・・チッ」
「おぬし大分疲れておるな」
「今日は色々とありすぎたな」
リュックを下ろすと床に置いた。そのまま首をガクッと落とすと、そのまま居眠りしてしまった。
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