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4 閉ざされた海
この星の海がおおよそ八割、干上がった。ところどころに残された海は、もうほとんどが水たまり、いや汚泥の湖のようなありさまだ。
「われわれの国も虫とノーマンに襲われ、壊滅した。いまあの潜水艦内にいるのがその生き残りだ。最初は多くの艦船で脱出したが、一隻、また一隻と沈み…いま残っているのが最後なのだ」
世界が滅んだのだ。こうして生き残っているのは奇跡だが、それは果たして幸運なのだろうか。
「わたしたちを呼び寄せた理由は?」
レナード大佐はある程度事情を知っている。そうガニスは思った。
「救助は期待していない。ただ、われわれの国のデータ…歴史、文化、そして国民の記録を託したい。われわれはもう長くないだろう。われわれが死んで、わが国の歴史も終わる。だからわれわれが生きていた記録を、あなたたちに託したい」
「理解した。だがわたしたちはこれからある任務を遂行しなくてはならないのだ。それは恐ろしく困難なものだろう。つまりデータを預かっても無駄なだけだ」
グラジミールはそう聞いて大きなため息をついた。それは予想した通りだったんだろう。
「預かってやればいいじゃん」
テリルがいきなりそう言った。いまガニスが考えていたことだ。
「いやしかしこの先、なにが待ち構えてるかわからねえんだぞ?みんな死んじまったらそれこそ無駄だろ」
「クロックに入ったらデータはリンクできる。無駄じゃない」
「だからそこまで生きてたどり着けるかって話だろ」
「まあいい、ガニス。預かってやろう」
大佐がそう言った。それを聞いてグラジミールの表情が少し明るくなった。
「ありがたい…。ではデータを渡したい」
「わかった。だがスクランブルのかかったデジタル通信では時間がかかってしまうが?」
「いえ、外部記憶装置が…」
「それはどこに?」
「外のゴムボートに乗せています」
「乗せる?それは機械、ではないのか?」
大佐はかなりいぶかしんでいる。
「いいえ、違います。それは…」
グラジミールが答える前にそれは機内に入って来た。小さな人間だ。背丈はテリルと変わらない。
「こいつは…人間かよ」
「いいえ、正確にはデミ・ヒューマンです」
「なんだって!」
その子供のような背丈の人間の着ているコートをグラジミールが脱がすと、そこには少年の顔があった。
「ちょ、ちょっと待てよ!このガキが外部記憶装置だと?い、いやおまえいまこいつがデミ・ヒューマンだと…それってヒューマノイドなんじゃねえか?」
「ガニス中尉、それはちがう」
大佐はやはり何かを知っているようだった。
「デミ・ヒューマンとはノルドフの開発した人工生命生成体のことだ。人工的に育てた生命体の基幹部分だけを取り出し機械と合成させたものだ」
「無茶苦茶なことしやがるな…」
みながその少年を見た。その少年の表情はうつろで、まるで人形のようだった。
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