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まだ、僕は夢の途中。
今年から三年生を受け持ったのだ。
文化祭を終えた彼らの目は、
未来に向かって歩んでいる。
受験や、進学に向かうものもいる。
調査書も、テストもまだ作らなくてはいけない。
大変な仕事だか、やりがいを感じる。
「……先生は、どうやって今の仕事に決めたんですか?」
以前、教え子の少女に訪ねられた。
……僕は、どう答えたんだっけ?
「昔、憧れていた人がいてね。その人みたいに、たくさんのことを抱えて、苦しんでる真面目な子を助けたいと思ったからだよ。……だろ?」
「……うげっ。何で知ってんだよ?」
同じ学校の同僚が、タバコ片手に話しかけてきた。
「その子、爆笑しながら辺りに言いふらしてたぞ?俺らの耳に入るくらいな。」
僕は、少しカチンとしながら。
「あんにゃろう……素直に答えた俺が馬鹿だったわ……」
「……でもさ。」
同僚が、僕に語りかける。
「アイツ、こないだ教育相談したら「先生になりたい」って言ってたぜ?何でか聞いたら、何て答えたか分かるか?」
僕は、いじけた風に答える。
「……なんだよ。」
「「苦しんでる人に寄り添って、笑顔にしたいから」だと……」
家に帰り、漠然と考える。
僕は本当にそれでよかったのだろうか。
先生の道に後悔はしていない。
……ただ、その確かな想いを。
彼女本人に向けるべきだったのかもしれないと。
そんなことを考えてしまう。
現実は非情だ。
早めに行動しない奴に、彼女なんて出来やしない。
気付いた頃には、彼女にはもうすでに彼氏がいた。
僕は話し相手でしかなかった。
チャンスはあったのかもしれない。
……だか気付いたところで、
もう遅いことを知っている。
大人になるために、諦めた。
それは、今の本音。
未練はほとんどない。
それが、自分の運命だと知っていたから。
僕は、これからも生きていく。
彼女も、たぶん何処かで生きている。
「色々迷惑かけるかもだけど……これからもよろしくね!」
あの頃の正月にやってきたメールを思い出した。
あの時の僕は。
「それはお互い様だよ。こちらこそ、これからもよろしく!」
そう言っていた。
あの頃には、もう戻れない。
だけど。
僕には、未来はある。
夢がある。
彼らが巣立っていくところを、見守りたい。
幸せになれるように、手を尽くしたい。
だから……
これからも、僕は生きていく。
忘れられない思い出を、大事に抱えながら。
「これから、一年間よろしくな!」
僕が、今ここにいる理由を思い出した。
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