18.

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18.

数日後の土曜日になり、新宿駅の構内で待っていると依那(よな)が到着して、二人で改札を出てそこから小田急線の改札口に入り、電車に乗り代々木上原駅に着いた後彼女を先導に道なりを歩いてくと一軒の店に着き中へ入っていった。 カウンターにいる店員が彼女に声をかけてきて席へ案内をし、ワインと前菜が運ばれてきて乾杯をして国産和牛や鮮度の良い野菜を使った品物が並べられて食事を摂ると依那も嬉しそうに舌鼓(したづつ)みを打っていた。 「結構飲むなぁ」 「ここのワインと料理本当に好きなんです。季節ごとにメニューも変わるんで毎回来るたびに新しい発見があるんですよ」 「そうか、相当気に入っているんだね」 「はい。次回秋の新作出るからもう今から楽しみですよ」 「気が早いよ。……今日、なんだか楽しそうだね」 「だってずっと会えていなかったし、メイクも気合入れてきたんです」 「そうか……それは嬉しいよ……」 「どうかされました?」 「いや、凪悠(なゆ)がこの間まで体調良くなくてさ。仕事を根詰めて無理がたたったみたいなんだよ」 「一緒にいなくて大丈夫なんですか?」 「ああ。今は安定している。向こうもせっかくなんだから羽伸ばして来いって気丈に振舞っていたよ。あれだけ元気なら僕も安心している」 「弱っている時こそ本当は一緒にいないといけないのに、凪悠さん無理していないかな……?」 「いいんだよ。いつものあいつだ。昔からそうなんだよ。逆に傍にいすぎると毛嫌いしてくるし思い切り背中を蹴っ飛ばしてくるやつだからさ。そういうところ男勝りなんだよ」 「なんでもなくても、傍にいれる時はいてくださいね。本当は凄く辛いと思うし」 「うん。倉木さんがそんなに気に掛けなくてもいいよ。そういう性分なんだ」 「そう……」 「何かワイン頼む?」 「そうだなぁ。白がいいな」 僕は彼女の美味しそうにワインを飲む姿に自然と笑みがこぼれて、その仕草に気づいた彼女も良い気分に浸りながら身体に程よく酔わせていった。 店が閉店近くになるまで会話をした後会計を済ませて外に出て歩き、駅のホームで電車を待っている間に凪悠にメールをして依那の自宅に泊ることを告げた。 「今日このまま泊っていく」 「自宅じゃなくて、ホテルにしませんか?」 「まだ終電には間に合うよ?」 「そうなると思って予約しておいたんです。行きましょう」 「わかった」 新宿まで向かった後乗り換えをして恵比寿のガーデンプレイスの隣にある五階建ての新築のホテルに着いた。部屋の中に入ると依那は僕に寄りかかり抱きしめてきたので、靴を脱いでそのままベッドに押し倒すと甲高い声を出して笑うその口元を手でそっとふさぎ、軽くキスを交わした。 「前よりもっと激しくしたい」 「こんなに酔っているんだ。途中で吐いたら元も子もないよ」 「汚いこと言わないで。……ふっ。もっとよく顔を見せて」 「会いたかったよ。我慢できないな……」 僕は再び彼女に舌を絡ませながらキスをして衣服を脱がそうとすると自分で脱ぎ始めて、今度は僕の衣服を脱がせた後にしがみつくように身体に抱きついてきた。 じゃれあいながら何度もキスをして依那の下半身の下着の中に手を入れて愛撫すると僕の顔の鼻を口で甘噛みして顔を胸元に寄せて埋めるように僕を両腕で抱えてきた。 「もっと奥に指を入れて回してきて。……ん、気持ちいい……」 彼女の胸を吸い寄せるように舐めながら愛撫して、下腹部から陰部にかけて弄り出すと淫声をあげてきた。下着を脱がせて両脚を開かせ分泌物が僕の口についたまま陰核から膣にかけて舌で舐めていくと、彼女は淫靡(いんび)に浸り出して身体をくねらせて更に声を漏らしていた。 もっと感じてもらいたいと思い尻の穴に指を入れて更に膣の中に舌を突きながら舐め回していくと、その後彼女は起き上がったので僕はその体を抱きかかえて立ちあがった。 その体勢で窓辺のところに行きカーテンが開いたまま窓に寄りかからせて、そこに映る二人の裸体の姿を見たままキスを交わしていき、静寂な街の明かりを眺めては彼女は話してきた。 「私達、いつか一緒になりたい。ねぇ、離婚はいつするの?」 「年内だ。向こうも次の新居を決めるからそれまではまだ一緒には……」 「早く別れて。どんどんあなたが欲しくなってきているの。この手で奪いたいくらい……!」 「そう焦るな。もう少し我慢して。俺も我慢しているんだ」 「名前……海人って呼んでいい?」 「ああ。僕も依那って呼ぶよ」 しばらくして熱い情欲を重ねた後、ベッドの中で眠る依那が目を覚まして僕に再び語りかけてきた。 「あれから、子どもはどうなったの?」 「急にどうした?」 「嫌な予感がする……何か、隠しているよね?」 「実は……凪悠が流産したんだ」 「……!どうして早く教えてくれなかったの?!」 「ごめん。二人とも大事だからすぐに話せなかった」 「彼女、泣いた?」 「うん。泣いた後はいつも通りにしていた。僕も大丈夫かと思って様子をみていたけど、何事もなかったかのように振舞っていてさ」 「本人がそうならいいと思う。ただ、もしまた子どもが欲しくなった時できるかどうかわからないよね」 「ああ。そこも考えている」 「片山さんだっけ?その人は何か話していた?」 「向こうとは連絡は取っているけど心配ないからこれ以上何も関わらないでくれって言われた」 「そう。もう他人になるから今度は向こうの事だけの問題になるもんね」 「それが凪悠の運命なんだ。投げやりになるつもりじゃないけど、もう僕は必要性がなくなる。彼女も自分を許容しているんだ。このままそっとしてあげたい」 「そうね。私も同意する。海人と凪悠さんの間にあるすれ違うように癒着していた呪縛がやっと解放されたんだよ。これで同じ舟に乗っていける。私達だけの舟よ」 依那の瞳が深い蒼に変容していくのを眺めながら僕は(かじ)を切ることを決め、温もりの冷めないうちに抱き寄せて二人の身体を温め合うように深更(しんこう)の海路の中へ静かに進みだしていった。
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