蛍火

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 星屑、なんて呼び方は星に失礼だよな。星のかけらさん? RPGのアイテムみたいでやけに安っぽいけど、屑呼ばわりよりはマシだと思う。だったらゾウさんジョウロだってジョウロに失礼だから「ゾウさんジョウロさん」って呼んであげなきゃいけないんじゃないかな。  果てしなく限りない、脳に記憶させるに値しないほどのくだらない考えが浮かんでは消える。浮かんでは消える。浮かんでは消える。チカチカと点滅するネオンみたいに。そういえば近所のパチンコ屋の「パチンコ」の字が……と踏み込んではならない部分に足を載せようとしたら、隣で「なあ、そろそろかな」とチヒロが声を弾ませたことで、あたしは我に返った。    チヒロは男子弓道部の部長。あたしはマネージャー。部内恋愛はタブーどころか、そもそも恋愛自体に経験のない連中ばかりだっただけに、最初のうちはコソコソとしていた。でもチヒロと付き合い始めて二ヶ月くらい経って、カラオケから二人で出てきたところを他の部員に思いっきり見られてバレてしまってからは、大手を振って二人で歩くようになった。  もっとも、チヒロは高体連でもばっちり成績を残す(ただし学業は残してない)し、あたしは相手が誰であろうと平等にマネージャーとしての仕事をこなすことにしている。結果を残し、やることをやっている相手に対してはぐうの音も出ないというのは、学年でも成績の良いグループにいるあたしが多少スカートの丈を短くしても何も言ってこない教師たちによって教えられたことだった。  テストが近づき部活動を禁止されているので、今日の昼間はファミレスでチヒロに勉強を教えた。いっぺん教えたら理解はしてくれるし、問題を解いてもらったらその場では解けるが、どうもテスト本番にその結果が表れてこないのがチヒロだ。なんで弓道ではできるのに勉強では皆中(かいちゅう)させられないの、とあたしがぼやいたら「そのぶんサオリには皆中させてるからいいんだ」などと言うものだから、あたしはチヒロが頼んだパフェに最後まで残っていたサクランボを奪ってやった。
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