4人が本棚に入れています
本棚に追加
長い夏休みが終わり――。
安藤が再び俺の前に現れた。
「松井君!」
「お、おう……」
自分の返事がちょっと元気ないなと俺は自覚した。
二学期初日の俺はちょっと気落ちしていた。別に夏休みが終わって気落ちしてたわけじゃない。
夏休みが終わる数日前に、あることに挑戦した。その結果が昨日出た。
優勝を逃してしまったという結果だった。
今回の挑戦の結果には自信があった。でも二番という結果だった。
まあ毎回優勝できるわけがないし、一番が誰だったかなんて興味はないから、賞状やトロフィーがもらえなかった残念だったねで終わらせればいいのだが……いつものように。
しかし、今年の夏休みは何に挑んでも二番という結果で終わってしまった。
賞状やトロフィーがまったく手に入っていなかったのだ。
これは何かおかしい。
なぜだ?
その答えが目の前に現れた。
安藤は手に持っていたトロフィーを俺に見せた。
「これこれ。挑戦してもらえたトロフィーなんですよ」
それは俺が目指したトロフィーだった。
俺は嫌な予感がした。不安な気持ちを隠し、さりげなく安藤に聞いてみた。
「なあ、安藤。お前さ。先週のあれとあれにも、挑戦しなかった?」
「しましたよ。どっちも一番が取れました」
こ、こいつ……まさか?
「松井君にできることは僕にもできる。証明できました」
俺に狙いを絞って自信をつけに来やがった。
☆X▽■〇――!?
言葉にならない怒りが込み上げてくる。しかし、ここで怒った姿を見せてはいけない。それは劣等感の表れだ。冷静に冷静に。
「そ、そうなんだ」
「僕にとってのやる気と自信の結び付け方は――松井君を意識することだったのです」
「ま、待て……」
「松井君がやろうとすることに僕も挑戦する。松井君にできることは僕にもできるんだとする。松井君は僕の目標でライバルなんです。これからもよろしく!」
俺はこの先ずっと安藤に負け続けるのか?
「俺に勝てと言ったわけじゃないぞ」
「ああすっきり。心で動くってステキなことだね」
「おおおうい!」
俺の悲痛な叫びは嬉々として去っていく安藤の耳には届かなかった。
違う違う――そうじゃない。
悔いても、もう遅かった。
俺は、俺自身の天敵となる化け物を生み出してしまったのかもしれない。
これからどうする?
俺は自分の心に問いかけた。
ふっと笑いが込み上げてきた。
俺は頭の中に浮かんでくる言葉を読み上げた。
「この俺に挑戦してくるだと? 面白い」
俺の心は安藤とのこれからの勝負を楽しんでいやがる。
俺と俺の心は同時に同じ言葉を発した。
負けず嫌いめ。
これからもよろしく――と。
<終わり>
最初のコメントを投稿しよう!