打上花火

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『コウちゃん、起きて』 『・・・アキ。』 手を伸ばそうとしたら、 小さく笑って、アキは消えた。 夢か・・・。 時計の針は17時を少し、過ぎていた。 近くの公園で子とも達の遊ぶ声がしている。 今日は何曜日だったけ。 僕はこの一ヶ月、外に出られないでいる。 こんな時間に起きてしまったら、 また、朝が迎えられないよな。 溜め息しかでない。何をやっているんだか。 でも、久しぶりにアキに会えたな。 アキは高校時代の恋人だった。 お互いに初めての彼氏、彼女と呼べる存在で、僕は大切に思ってた。 高校生カップルの一大イベント、 夏の花火大会が初めてのデートだった。 あの頃、アキは僕の隣でいつも笑っていた。 もちろん、僕も。 その関係があんなにあっけなく終わるなんて。 卒業して、地元で就職したアキと、県外に進学した僕との関係が離れていくのに、 時間はかからなかった。 アキの名前を友人から聞いたのは疎遠になって2年が経っていた暑い夏の夕方。 それは、アキの葬儀場所と日程だった。 ウソ、ダロ? アキは誰にも何も言わず、一人で旅立ったらしい。 半ば呆然としたまま、地元に帰り教えられた場所にアキに会いに行った。 アキはあの頃のままの顔で静かに眠っていた。 涙は出なかった。 何人かの友人と言葉を交わしたはずなのに、何も覚えていない。 ただ、悲しいなのか、悔しいなのか、寂しいなのか、自分でもよくわからない感情だけを覚えている。 それから、5年。 恋人と呼べる人はいなかった。 アキのせいじゃない。 仕事がひたすら忙しく、毎日を必死で過ごしていた。 たぶん、必死過ぎたんだ。 ある朝、突然、起きられなくなった。 それが、二日、三日と続き、心配した同僚に付き添われて病院に行った。 睡眠障害、うつ病の一歩手前らしい。 それから、地元に帰り、一ヶ月。 相変わらず、昼夜逆転のような生活だが、 少しづつ何かが変わってるように感じている。 「コウ、起きたの?」母親が部屋を覗く。 「ああ、」 「今日、花火大会だよ」 「そうなんだ・・・」 『一緒に見に行こうか? アキ。  二人で観たかったんだよな?  だから、僕を起こしてくれたんだろ?』 『・・・心配かけて、ごめん   ありがとう・・・アキ。』 何年かぶりに観た花火は あの日と同じで、とても綺麗だった。 涙でぼやけても。 fin
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